文学

ウリポ的傑作クノーの「文体練習」を読む

レーモン・クノー続々と刊行されていくスピードに全く追いつかないものの、少しずつ読み進めているレーモン・クノー・コレクションですが、ついに、超有名な作品「文体練習」が登場したので、早速に挑んでみました。 文体練習この作品をなんと呼べばいいのか…

H・V・クライストによる短編集「チリの地震」を読んだ

H・V・クライスト1800年代前半に活動をしていた、ドイツの作家H・V・クライスト。 存命中はあまり高い評価を受けていなかったようだが、20世紀に入り、その静謐な文体に注目が集まった作家。 主に、劇作やジャーナリストとしての作品が多く残っているが、い…

ウクライナの忘れられていた作家シギズムンド・クルジジャノフスキイの短編集が鋭い

シギズムンド・クルジジャノフスキイ 私は、なんとなく本屋でこの本を見つけて、何かを感じて読むことにしたのが、シギズムンド・クルジジャノフスキイ というロシアというかウクライナの作家の短編集「瞳孔の中」。 この作家は、最近、ロシアでも全集が刊行…

レーモン・クノーの「人生の日曜日」を読んだ

レーモン・クノーレーモン・クノーは、ヌーヴォー・ロマン直前あたりに位置づけられるフランスの小説家。「文体練習」が有名な作家で、実験的な文学表現を志す「ウリポ」に在籍していたことでも知られる。 また、シュールレアリズム運動の人々とも交友を持っ…

クロード・シモンの大作「農耕詩」を読んだ

クロード・シモンヌーヴォー・ロマンを代表する作家の一人で、ノーベル文学賞作家でもあるクロード・シモン。その代表作である「農耕詩」を、結構な時間を掛けてようやく読み終わった。 彼、彼、彼3人の彼が登場する物語。第一部で、その全体像が示唆される…

メルラーナ街の混沌たる殺人事件を読んだ

ガッダついこの間、再刊となった、カルロ・エミーリオ ガッダによる作品、「メルラーナ街の混沌たる殺人事件」を読んでみた。カルロ・エミーリオ ガッダは、イタリアの文学者で、前衛的な作家として知られる。日本で刊行されている作品は、少ない。故に、日…

カフカ博物館に行ってきた

プラハさてさて、今回は少し番外編。ちょっとチェコはプラハへ旅立つ用事があったので、ついでにプラハにあるカフカ博物館に行ってきました。 場所は、観光名所として知られるカレル橋のすぐ近くの川辺でプラハ城がある側。比較的小さな建物だけれども、腰部…

トマス・ピンチョンのV.を読み終えたのだが

V.着々と刊行が遅れ気味のトマス・ピンチョン全集ですが、私の読み進める方も着々と遅れており、ようやく、「V.」を読み終えました。 この作品は、トマス・ピンチョンのデビュー作に当たる作品で、今回の翻訳では薄めの上下巻にわたる作品。 謎のトマス・ピ…

2011年に読んだ文学を自分のブログから振り返る

文学本日は、映画に引き続きということで、2011年の文学を振り返ります。 しかし、毎度のことながら、文学については、私がたまたま今年読んだというだけのものもありなので、タイムリーな情報とはいえない部分もありますがご了承ください。 11冊2011年に読…

今度は、トマス・ピンチョンの逆光です

逆光さてさて、トマス・ピンチョン全小説から、お次は、「逆光」を読んでみました。というか、実際に読了したのは、先日紹介した「競売ナンバー49の叫び」の前だったのですが、この大著「逆光」について書くにはなかなか心構えが必要で、ようやくそのそれな…

謎解きが謎を呼び続けるピンチョン作品「競売ナンバー49の叫び」を読んだ

トマス・ピンチョンさて、新潮社より現在刊行中のコンプリートコレクションの刊行スピードに全く追いつかないままにせっせと私が読みつないでるトマス・ピンチョンの作品群ですが、今回は、「競売ナンバー49の叫び」を読んでみました。 この作品は、1966年に…

ウリポな文学者レーモン・クノーの地下鉄のザジを読んだ

レーモン・クノーさて、今回紹介する作家は、レーモン・クノーという20世紀のフランスの作家。文体練習という一風変わった同じ文章を永遠と様々な表現手法で書くという作品がよく知られる作家。 この作家は、ウリポという新しい文学表現、例えば数学的な構造…

憎しみの独白、トーマス・ベルンハルトの消去を読んだ

トーマス・ベルンハルト20世紀オーストリアの作家、ドイツ語圏文学における重要作家の一人、トーマス・ベルンハルト。日本では、あまり知られていないのだけれども、小説家・戯曲家として認められている。 消去そんな、トーマス・ベルンハルトの生前に発表さ…

中国文学者「莫言」の新作「蛙鳴」を読んだ

莫言私個人的には、いつノーベル文学賞をとってもおかしくないと思っている現代中国文学者莫言。作風は、ガルシア・マルケスなどを評する時にも使われるマジックリアリズム的なもの。中国の農村の状況が時代とともに変化していく様子を戯画化したかのような…

ロシアの知られざる作家 サーシャ・ソコロフによる「馬鹿たちの学校」を読んだ

サーシャ・ソコロフサーシャ・ソコロフはロシアの文学者だが、生まれは、カナダ。その後少年時代はロシアで過ごした後には、その多くの時間をアメリカで過ごしている作家。 この作家の存在は、私は全く知らなかったのだけれども2010年の末に代表作の「馬鹿た…

ヘンリー・ミラーの「ネクサス」を読み終えた

ヘンリー・ミラー20世紀アメリカを代表する作家のひとり、ヘンリー・ミラー。その代表作の一つに、薔薇色の十字架刑というシリーズがある。そのシリーズを順番に読み進めてきて、今回はその3作目に当たり最後の作品である「ネクサス」を読んだ。 変遷セクサ…

ヘンリー・ミラーのプレクサスを読み終えた

ヘンリー・ミラーヘンリー・ミラーは、20世紀アメリカを代表する文学者の一人と私は思っている作家。南回帰線や北回帰線が特に知られた作品だけれども、性的なものも含めた猥雑で膨大な文体によって、自伝的な内容を描く作家。 そんな、ヘンリー・ミラーの代…

安部公房の娘が書いた安部公房伝

安部公房私にとっては、最も重要な作家である安部公房。その特異な世界は、時にとっつきにくさや難解さとしてとらえられることも多いが、私にとっては、その異なる世界が私の視野が広がっていくきっかけになったと言うこともあり、そのとっつきにくさや難解…

ビラ=マタスによるマイナー文学史「ポータブル文学小史」

ビラ=マタスエンリーケ・ビラ=マタスは、「バートルビーと仲間たち」が、たぶん日本で初めて翻訳された作品で、私自身は、この作品で、一気に大好きになった作家。そのビラ=マタスの「ポータブル文学小史」という作品が新たに翻訳されて出版されたので早速読…

「もうすぐ絶滅するという紙の書物について」を読んでみた

とりあえず2010年まとめ記事は、ある意味メインイベントである音楽編の2010年ベストアルバムを選ぶという仕事が残っているのだけれども、とりあえず、閑話休題で、年末年始の時間を利用して読んだ本、「もうすぐ絶滅するという紙の書物について」を今回は取…

2010年の文学を自分のブログから振り返る

文学さて、大晦日。今年最後の記事は、2010年の私的文学体験を振り返ります。ちなみに、今年は、この記事で、135エントリーということで、まぁ、それなりに書きまくりました。 で、文学の方は、13冊読んだけれども、まぁ、1,2日で読めてしまうのもあれば、…

フォークナーの響きと怒りを読んでみた

フォークナー20世紀の偉大なる文学者の一人、ウィリアム・フォークナー。奴隷制度のにおいの残るアメリカ南部を題材とした多くの小説を残しており、それらは、まとめて、「ヨクナパトーファ・サーガ」とも呼ばれている。ノーベル賞作家。 そんな、フォークナ…

トマス・ピンチョンのメイソン&ディクソンを読んだ

トマス・ピンチョンアメリカ現代作家の巨人、トマス・ピンチョンの作品、メイソン&ディクソンを読んだ。 このトマス・ピンチョンは、寡作な作家であり、かつ、公の場に姿を現さないが故に、謎めいた作家でもある。一方で、その作品のレベルは圧倒的であり、…

朝吹真理子さんという作家の”流跡”を読んでみた

話題話題と行っても、近頃は、ネットを中心として媒体が多岐にわたるので、世間一般で話題になっているのかどうかは定かではないのだけれども、私のTL上では話題になっていて、ちょっと興味がわいたので、読んでみた作品が、朝吹真理子さんという作家の作品…

ちょっとした物語、「フォーチュン氏の楽園」を読んでみた

個性派セレクション新人物往来社という、私自身はあまり聞き慣れない出版社が、近頃出版開始した外国文学シリーズに、「個性派セレクション」というのがある。 このシリーズに何となく興味を持ったので、そのシリーズの第二巻、「フォーチュン氏の楽園」を読…

ロシアの作家 ウラジーミル・ナボコフの「賜物」を読んだ

ナボコフロシア出身の作家で、その後アメリカへ亡命した作家、ウラジーミル・ナボコフ。母国語であるロシア語での作品のみならず、母国語ではない英語での作品も残している作家であり、ベケットなどとともに、母国語以外の言語を使って名作を残した作家の代…

ロシア不条理文学 ハルムスの世界

ダニイル・ハルムスさて、本日紹介するのは、ダニイル・ハルムスというロシアの作家の短編集、「ハルムスの世界」という作品。 この、ダニイル・ハルムスという人は、カルト的な人気を誇るロシアのアヴァンギャルドな作家であるのだけれども、活動期がスター…

20世紀文学の大著 ジェイムズ・ジョイスのユリシーズを漸く読み終えた

ユリシーズ20世紀を代表するとされる文学作品は数多くあるけれども、このアイルランドの作家ジェイムズ・ジョイスによるユリシーズも20世紀を代表する文学作品の一つ。 この作品は、18章構成の中で、レオポルド・ブルームとスティーヴン・ディーダラスの行動…

膨大な戯言でもある様に、ヘンリー・ミラー セクサス

ヘンリー・ミラー個人的でかつ性的な描写が自由奔放に駆け回る文体の作家であり、発表当時はその作品が発禁になったりもしていたアメリカ人作家ヘンリー・ミラー。そんなヘンリー・ミラーの作品集”ヘンリー・ミラー・コレクション”は、そのシリーズが始まっ…

リチャード・フラナガンのグールド魚類画帖という奇談

リチャード・フラナガンリチャード・フラナガンは、私はこの作品で初めて知った作家で、当然読むのも初めて。オーストラリアは、タスマニア生まれの作家。現時点で日本語で読める作品は、今回紹介する「グールド魚類画帖」と「姿なきテロリスト」だけだと思…