フォークナーの響きと怒りを読んでみた



フォークナー

20世紀の偉大なる文学者の一人、ウィリアム・フォークナー奴隷制度のにおいの残るアメリカ南部を題材とした多くの小説を残しており、それらは、まとめて、「ヨクナパトーファ・サーガ」とも呼ばれている。ノーベル賞作家。
そんな、フォークナーの初期の名作、「響きと怒り」を読んでみた。


文体

フォークナーは、その作品において、時系列をばらばらに並べる構成や、文章の書き手が章ごとに変わる構成を導入するなど、文学にあたらな手法を持ち込んだ人物でもある。今では、むしろそういった手法を用いることの意味合いも考えることなく、乱雑に使ってしまう愚かな作家も多くいるのが残念だけれども。
私自身は、それほど多くのフォークナー作品を読んでいないので、そのすべての文章構成手法に精通してはいないけれども、様々な文学表現手法が産み出された20世紀文学における突破者の一人でもある。


作品

この作品「響きと怒り」は、南部のある家族を題材にした物語。黒人家族を従える一家で、名家の名残を感じさせる一家。この作品でも、4章構成ながら、章ごとに文章の書き手は変化し、そして、最終章では客観者からの描写になる。また、各章はある一日を描くのだが、その主人公が、目の前で起きている出来事に対して、様々な時点の過去を思い出すというような形式で、過去にも言及される。つまり、時系列を前後させながら、その状況を眺める人物を入れ替えながら物語ることで、この家族の状況を立体的に描き出している。


悲劇の家族

そして、そこに描き出される家族は、悲劇に包まれている。崩壊していく家庭。希望の元にその一家に生まれ、育つ子供たちは、しかし、いずれも問題を抱えている。知的障害を持つ三男や、やがて自殺する長男、性行動にとらわれる長女、そして、理想などは持たずただ現実をおいかけるだけの次男。絵に描いたような幸せを親から与えられようとしながらも、むしろ、崩壊していく一方となってしまった一家には、悲劇しか感じられない。


絶望的

そう、この作品からは、あまりにもの絶望が感じられてくる。フォークナーは、構成には特殊な方法を用いるが、その描く内容は、現実に即したリアリズムである。であるが故に、そこに描き出された悲劇には逃げ道がない。私自身がそれほどフォークナーの作品が好きになれないのは、そのような絶望から逃れられないような雰囲気を持ちすぎているというのも一因であり、それは、この作品でも、そうである。


誰も

そして、物語の終盤に行っても、その子供たちの誰一人として幸せのかけらすらつかめにまま。そして、やがて、物語は終結とも言い切れない終結にたどり着く。決して、すっきりする結末を私は求める読み手ではないのだけれども、しかし、やはり、このフォークナーの作品のこの何とも言えない絶望感きわまりない終焉は、やるせない気分になる。
その文学的な試みや、一方で、現実を決して許しはしないという決意のようなものを感じさせるようなその物語には、文学に対する作者のストイックなの姿というのもを感じ取ることも出来るのは事実であるが、しかし。


その文体、構成についてだけれども、確かに、フォークナーは突破者の一人である。ガルシア・マルケスの作風は、このフォークナーの延長線上にあるという文学的な位置づけは確かに、納得できる。文体を駆使しながら、立体的な世界によって、許しを与えない構成を作り上げたフォークナーに対して、そのベーシックな部分はそのままに、そこに、現実を超越した世界を継ぎ足すことによって、絶望的な悲劇に、それでも、希望を、もしくは、悟りを感じる余地を植え付けたというのが、ガルシア・マルケスの作風であるようにも感じる。
その意味でも、文学の展開の礎とフォークナーの作品はなっている。20世紀を代表する作家であることは、確かに間違いない。


意外と

この作品。上述のように、現実の一家を物語る作品なので、その構成の特異性にもかかわらず、比較的読みやすい作品ではある。
ちょっと、重い気分にもなる作品ではあるけれども、20世紀が産み出した大きな文学の進歩を感じる作風を味わってみてはいかがだろうか。


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