いまさらだけど「ホモサピエンスの涙」を観ました

ロイ・アンダーソン

「散布する惑星」などで、一部のファンからは話題をさらったロイ・アンダーソン監督。
その後、「愛おしき隣人」「さよなら、人類」と同じテイストの作品をリリースしていたが、
現時点では最新作となる「ホモサピエンスの涙」が2019年に公開された。
そんなだいぶ前の作品なのだけれども、なんだかんだで見る機会を失い、ようやく観ることができました。

淡い世界

この作品でも、ほぼ固定された画面で、単発的な映像が、つなぎ合わせられる構成はかわらず。
まずは、その淡い世界の美しさと儚さに感情を煽られないではいられない。
そして、その中で描かれる各々の世界は、常にどこか寂しさというのか、残念さというのか、
悲哀を感じないではいられない世界。
特に、この作品は、タイトル通りなのかもしれないが、他の作品に見られたクスリとくるような笑いは抑えられ、
ひたすらに、どうにもうまく行かない人々が描かれていく。

片隅

世の中は、CG隆盛でかつ時間を重要視したエンターテイメント性が最も重要視される世界になってきている。
この作品は、その完全に真逆を行く世界。もちろん、エンターテイメント性の高い作品の面白さはそれはそれであるが、
感情の奥底にある、自意識と自己の中にある寂しさや苦しみというのは、多くの人の中にあり、
キラキラ系な価値観がアピールされる現代においては、むしろそれらは押し隠され、さらに否定されているようにも思う。
この作品では、しかし、そんな世界だけをあえて描いていて、こういった世界のほうが、
心地よく感じる層も一定レベル存在するのだと思うし、そういう人にはどうにもたまらない世界と感じられるだろう。

世界は

ますます慌ただしく、変化がすごいスピード進んでいるとも感じられる世界。
しかし、人の感情は必ずしもその様子に対応しきれるわけではないし、それを臨んでいるのではないかもしれない。
そんな世界には、やはり、こういったアンチテーゼのような世界が必要なのだと思うし、
私個人的には、日常の慌ただしさの中で、このような作品をじっくりと観る感情を失ってしまっていたのだと思う。
ようやく見つけた時間で鑑賞できたこの作品が描く世界は、ある意味では必要とされる世界なのだと思う。

時代

あまりにも時代に逆行している作品ではありますが、この時代に違和感を時々感じるようであれば、
ぜひともこの作品をはじめ、ロイ・アンダーソン監督の世界を味わってみてほしいと思う。
世界は、このようにも、あるのだと思います。