静かな旋律「約束のない絆」パスカル・キニャール

パスカルキニャール

フランスの作家パスカルキニャール。作家であると同時に、音楽や舞台、一方で、哲学など、総合的な思索家であり表現者であると言える人物。
そんなパスカルキニャールの作品群が、パスカルキニャール・コレクションという形でまとめて刊行されている。
その一つである「約束のない絆」を読んでみた。

静かな

彼の作品のうち、どちらかというそ思索的な内容の作品しか読んだことがなかったので、非常にとらえどころのない難解な作品という印象があったのだけれども、この小説は比較的読みやす作品。
ある海辺の村を舞台として、複雑な過去と感情を持つ女性を中心として、その弟や取り巻く関係者その暮らしを描いた作品。
複数の登場人物の視点を持って描きながら、重層的に描かれていく世界。
そこには、溢れ出すような感情があってもおかしくない出来事に対して、押し殺したように静けさが保たれた世界が描き出されている。

感情と行動と正常性と

その押し殺したような、でも強い感情は、正常ではないのか、それとも、それこそがそうであるものなのだろうか。
主人公の行動もまた、正常ではないようにも感じる。一方で複数の語り手によって明らかにされるのは、それぞれが異なるようにその正常性を捉えているということ。
通常ではないこと。だけれども、そこにはある「絆」とは。

約束のない

その意味では、この日本語タイトルは秀逸であると思う。「約束のない絆」。
約束されておらずとも、つながっている絆。静かな感情が深いところで、依存し合う様子。
ときにそれは血縁でもあるが、時にそれは血縁とも関係がなく。
人の感情の、他者との共生における、そのものをあぶり出すような、そんあ静かな作品。

絶品

静かに折りたたまれた作品であり、そして、小説としても、読みやすいこの作品の中に、いろいろな感情が畳み込まれている。
強烈な印象を残すような作品ではないが、非常に美しい、絶品小説である。