安部公房の娘が書いた安部公房伝



安部公房

私にとっては、最も重要な作家である安部公房。その特異な世界は、時にとっつきにくさや難解さとしてとらえられることも多いが、私にとっては、その異なる世界が私の視野が広がっていくきっかけになったと言うこともあり、そのとっつきにくさや難解さを超えた意味を持つ作家である。


安部公房

安部公房は、多くの言語に翻訳されていたり、生前はノーベル賞候補に挙がるなど、国際的にも重要な作家としての位置づけがなされていると思うのだけれども、残念ながら、上記のとっつきにくさと難解さのためなのか、驚くほど安部公房作品やその人についての評論として出版された書籍は少ない。
そんな中、安部公房の娘、安部ねりが、父安部公房について書いた書籍、安部公房伝が発売された。


作品概要

この作品は、前半が、安部ねりによる安部公房の生涯を軽く考察しながら、軽い伝記的に書き上げた作品となっており、後半が、安部公房と公有のあった人々にたいするインタビュー集になっている。なお、後者は、安部公房全集の付録として既出のものを再構成したとのこと。


伝記

大概、著名人の伝記というと超分厚い書籍に子細に渡り調査された結果から真実であろうと思われる部分や、その人物の重要な性質を作り上げた事件などを取り上げながら、その人物がどのように構築され、そして、どのように振る舞い続けたかを描くというパターンが多い。そして、そこには全体の構成に対しては、著者の大いなる恣意があり、その子細に対しては著者は客観者として振る舞うということになる(伝記に限らず、作品構成によって何かを語るというのは重要な表現手法だと思う)。
ということを考えると、この作品は、伝記とはとても呼べる作品ではなく、娘による父の回想というレベルととらえるべきであろう。


文章

遠巻きにとりあえず書いてみたけれども、つまりは、私にはこの作品はあまりにも不足感が感じられてならなかった。
まず、文章のリズムがどうにも私には合わない。情景描写による情緒に突然頼ろうとしてみたり、しかし、全体的には簡素な文体を心がけているようで。その二者がうまく構成されているととらえる向きもあるのだろうけれども、どうにも私には心地よくない。さらに、人称の問題といっていいのかわからないが、作者が誰かから聞いた話なのか、安部公房本人が行っていた話なのか、想像の域を出ない話なのかが判別できない。”と言っていた”というような文章がところどころに使われるが、そこだけではないでしょうと思う。だったら、そんな文章必要ないのではないかと思う。ことさら人称や書き手の問題にこだわっていた安部公房について書いているならなおさらでしょう。


分析

そのほかにも、安部公房分析が軽く論じられたりもするが、衒学的になろうとしてるようで、しかし、それほど深い考察でもなかったりするから、これまた心地悪い。衒学的になるなら読者を圧倒するぐらいの訳のわからない議論をすべきではないのか。


父と娘

だから、これは、安部公房「私」伝とかそういうタイトルにすべきなのではないかと思ったりもした。かなり、期待して読んだこともあってか、分量的にもそれほどでもないし、新たな発見があるわけでもなく。ただ、一つ貴重なのはプライベートに近い部分が垣間見えるというところか。


難解

つまり、それほど安部公房を語るのは難しいと言うことなのだと思う。作品には「開かれた」作品と呼ぶにふさわしいものが数は少ないがある。「開かれた」をうまく説明できないのだけれども、その世界が作品内に用意された舞台の中で決められたルールに従うことでしか読解出来ない作品ではなくて、その作品に対して、読者側が自由に読み取ることの出来るような作品が「開かれた」作品であって、安部公房の作品はまさにそのようなそれ。であるが故に、固定されたイメージがあるわけでもなく、人それぞれにとらえているイメージがあるのだろう。だから、定点的にとらえようとするとおかしなことが生じてしまうと。
でも、だから、私は安部公房作品が大好きなのです。


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安部公房伝
発売元 : 新潮社
発売日 : 2011-03 (単行本)
売上ランク : 7596 位 (AMAZON.co.jp)
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