ロシア不条理文学 ハルムスの世界



ダニイル・ハルムス

さて、本日紹介するのは、ダニイル・ハルムスというロシアの作家の短編集、「ハルムスの世界」という作品。
この、ダニイル・ハルムスという人は、カルト的な人気を誇るロシアのアヴァンギャルドな作家であるのだけれども、活動期がスターリン圧制下のロシアだったこともあり、多くの作品は生前は公開されなかった。しかし、ペレストロイカを期に公開されはじめたそうだ。また、最終的には、このスターリン圧政時に投獄され、獄中死したとされている。


不条理文学

彼の描き出す作品は、まさに不条理文学であり、今回紹介する「ハルムスの世界」は、そんなハルムスの描き出した超短編作品を集めた短編集。いずれの作品も、数ページで完結する小さな物語である。
そして、この小さな物語は、いずれも、不条理に描かれている。それは、時に何も意味をなさないような出来事を淡々と描いているだけのようであり、そして、時には、残虐さを感じさせるような出来事を無感情に描いてみたり。そこには、感情を高揚させるような物はなく、そこに感動どころか、意味を見いだそうとする読み手をいなすようでもある。また、一方でそれらは、ブラックなユーモアであるともとれる。


政治体制

そのような作風である一つの理由としては、言論統制された政治体制にもよるのだろう。政府を批判的に描くようなことは、当然の如く許されざる時代。そこで、彼が見いだしたのが、検閲をあざ笑うかのような、意味を持たない文章、少なくとも、文学的感性の強い人間でなければ、そこに何かを感じることの出来ない文章を生み出すことで、書くと言うことの欲求を満たしながら、そして、表現者としてその内容を全うしたのではないだろうか。
そう、確かに、それらの文章は、意味を感じさせない、そのまま読んでしまえば。しかし、一方で、そこには多くの意味が多層的に折り畳まれている。それは、カフカの変身を比較として例にとるとわかりやすいであろう。朝起きたら虫になっていたというその不条理な世界は、読む人によって、様々な意味として受け取ることが出来て、そして、表面的な感情ではないレベルのでの共感をそこに感じ取ることが出来る。まさに、ダニイル・ハルムスの編み出したこれらの短編は、そのような要素を持つ作品群である。


愚かしい人々

その文章をある側面で表現すると滑稽という言葉に落ち着くようにも、私は感じた。
そう、人というのは、とても滑稽であって、その滑稽さのさなかで、しかし、自由に生きようとする。その滑稽さは誰にも強制されるべき物ではなくて、それぞれが、それぞれに、滑稽であろうとするでもなく生きていることが滑稽であって。そんな、愚かしい我々が、愚かしくあれることをあえて肯定しているのだと、そのようにも、このダニイル・ハルムスの文章は受け取れるように感じた。この文章の中で唯一、ダニイル・ハルムスは自由に誰にも強制されることなく滑稽であり、無意味であることが出来たのであるという。
しかし、それは、虚しさも同時に内包しているのであろう。書けども書けども表現しきるこの出来ないと言うことに対する虚しさと、書きたいことを容易には書き尽くすことの出来ないという事に対する虚しさが。
そして、ふと思うのは、自由に表現出来たとして、では、これ以上の文章表現が可能であったのだろうかと、もしかすると、これらの文章は、そのような環境が生んだ奇跡の表現であるともとれなくはないかもしれない。


混ざり合った

そういった、情念と無念の混ざり合ったものがこの不条理な文章の狭間から沸き立っているようでもあり、それは、我々の人生そのものが、例えより自由を手にした政治体制に暮らしていても残存するやるせなさに対して、共感として響き渡りもするのであろうと思う。
だから、異なる時代の現在においても、彼の文章が行き続けているのであろうと思う。


ちょっとした

というところで、短編集でボリュームも多くないので、ちょっと気軽な気持ちで読んでみてはいかがでしょうか。
人生に対する小さなフックを感じることが出来るのではと思います。


関連リンク:
ダニイル・ハルムス - Wikipedia
柴田元幸 責任編集『モンキービジネス』 | 株式会社ヴィレッジブックス
関連サーチ:
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