レーモン・クノーによる辺縁への偏愛「リモンの子供たち」



レーモン・クノー

レーモン・クノーは、フランスの作家で、シュールレアリストなどとの交流をはじめとして、新たなスタイルの文体を追求した作家。その中でも、同じ文章を様々なスタイルで書き換える文体練習は代表作の一つであり、この作家のスタイルを端的に表す作品といっていいだろう。
そんな、レーモン・クノーの作品から、「リモンの子供たち」という作品を読んだ。


百科事典

この作品には、大きく二つの断面がある。一つは、この作品のタイトルどおりに、リモン家の人々が様々に交錯しながら生きていく人生のさま。そのしてもう一つは、シャンベルナック氏が執筆した百科事典。


合流

リモン家の人々については、作品当初は、その関係性が明確ではないのだが、作品が終盤に向かうに従ってそれぞれの家族の関係性が明らかにされていき、そして、それぞれがある一つの場所に収斂していくようでもある。また、そのリモン家の人々は、ある意味ではどこにでもいる家族と同じで、ある程度の起伏のある人生を生きているが、しかし、圧倒的に物語るほどの面白さをもつ人生を生きているわけでもない。ある意味、普通の人々の少しずつ変わった個性を持つのみの一家ではある。


狂人

一方で、シャンベルナックにおる「不正確科学百科事典」は、まさに狂気に富んでいる。過去の実在の妄想家を中心と下狂人といっていいであろう人物を集めたのが、この「不正確科学百科事典」。歴史の本流の中では、その存在の意義はもちろん重視されないような人々。しかし、そのいわば人類の辺縁部に着目して、編纂されたのが、この「不正確百科事典」。ある意味、これは人類の歴史の裏面を眺めるようなそんなものでもある。そして、それを執拗にまとめ上げたシャンベルナック氏こそが、もしかすると狂気に近いのか。その偏愛ぶりもまた面白い。


実際に

さらに、面白いのは、その「不正確百科事典」は実際には、レーモン・クノーが実際に調べて、一度はそのまま出版使用とした作品でもあること。しかし、それが最終的には、その要素を小説に組み込む形で、この「リモンの子供たち」としてまとめあげられている。なので、作品の最後には、レーモン・クノーその人が登場するという展開。


多岐に至る

この、どうしようもない人々をまとめ上げて、そして、どうということのない人々を描き上げたこの作品は、なんというのか、このある意味無価値そのものとも取れる物事を利から一杯まとめあげた「リモンの子供たち」は、あまりにも、面白すぎる虚無でもある。しかも、そこに感じるのは虚しさではなく微笑ましさであり、この境地で描けるのが、レーモン・クノーの独特の軽快な文体が所以であろう。


無価値

その無価値を仕掛けある文体で描き上げたこの作品は、まさに、隠れた傑作と評されるだけのことはある。無価値に焦点をあてて、人間の生活そのものをあぶり出すこのスタイルは、まさに、ポストモダンというのか、演出された物語とは完全に一線を画しており、文学の文学たる所以を感じさせてくれる。
価値のある無価値の表現といえる。


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リモンの子供たち (レーモン・クノー・コレクション)
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