中国の作家 残雪 による 「かつて描かれたことのない境地」



残雪

残雪は、中国の女性作家。非常に独特の文体で独特の世界を描くことで知られている。あまりにも独特の世界過ぎて何を描きたいのかということはなかなか一般的な感覚では理解しにくい作家かもしれない。
そんな残雪の特徴が存分にでている短編集「かつて描かれたことのない境地」を読んでみた。


かつて描かれたことのない境地

14作品が収められている。一部を除いて、かなり短い作品で占められている。
描かれているものは、いずれも、小さな村のある家族や個人を中心としてそのちょっとした行動を描いたもの。中国人作家という先入観のためか、それほど中国的な描写はないのだけれども、中国の片田舎の素朴な村の印象がどの作品にも感じられる。
劇的な展開も無ければ、感動というようなものもない。多分、普通に読んでしまうと、むしろ、これはなんなのだろうかという印象さえするだろう。
この作品集のタイトルの、「かつて描かれたことのない境地」は、まさにそのタイトルの短辺が納められてもいるのだけれども、その作品のみならず、まさに、「かつて描かれたことのない境地」がこの作品には描かれている。


ちょっとした違和感

それぞれの作品に共通するのは、ちょっとした違和感。そして、そこで起こっているちょっとした不思議な出来事が、しかし、それぞれの物語の中では当たり前のように扱われて、そして、それ自体が結果的に何かを引き起こすでもなく、その不思議な様子が起こす違和感だけがまさに描かれているといってもいい。
それこそが、まさに、「かつて描かれたことのない境地」であって、このような世界感は、他の作家ではなかなか見ることが出来ない。


カフカ的でもなく

時々、不条理というキーワードから、残雪の作品をカフカ的な迷宮とい比較することも良くあるとは思う。しかし、カフカ的な迷宮とは明らかに違う。残雪の作品の中では、例えば、その迷宮に対して、悪戦苦闘するような人物は出てこない。さらに、カフカの作品においては、不条理において、違和感を感じているのは、主人公などの作中人物である。
しかし、残雪の作品においては、違和感を感じて、その内容にあたふたしてしまうのは、むしろ読者の方であるだろう。
そして、何かの意味を見いだそうとするのかもしれないが、おそらく、残雪の作品には明確な寓意などはないと私は感じている。


違和感

そういった寓意よりも、まさしくそこで当たり前に行われてしまっている不可思議な情景をただ受け入れるしかないという違和感、その感覚こそが残雪が描いている「かつて描かれたことのない境地」なのではないだろうか。


挑戦

残雪の作品は刊行されてもすぐに廃盤になってしまうので、なかなか入手困難ななかではありますが、この作品はまだ刊行されたばかりで入手しやすいですし、さらには、短編集ということで、比較的読みやすい作品だと思います。
文学表現のさまざまな形を体験したい方には、この作品はおすすめです。
かつて描かれたことのない境地: 傑作短篇集 (残雪コレクション)
発売元 : 平凡社
発売日 : 2013-07-19 (単行本)
売上ランク : 195165 位 (AMAZON.co.jp)
¥ 2,730 在庫あり。
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