中国の不条理な作家 残雪の暗夜を読む



世界文学全集

河出書房から続々と出版されている世界文学全集は、なかなか渋い作品を取り上げていて、全24巻におよぶ。
そんななか、かなり意外中の意外な作家、残雪の作品も収録されているのが第一集の第6巻。残雪は、中国の女カフカとか、変な呼び方をされたりもするのだけれども、中国の農村の情景のなかに実に不思議な人間関係や、不思議な特性をもった人物を登場させて描きあげる作風であり、たしかに、カフカとの共通点は感じさせる。


暗夜

その残雪の作品は、かつては、数冊日本でも出版されていたのだけれども、ことごとく絶版で、その後再版される気配もなし。なので、今は中古本を探すしか手に入れる手段がないというのが実情だったのだけれども、そこに登場したのが、この世界文学全集で、ようやくまともに読むことの出来る残雪の作品が現存するようになったということ。
タイトルとしては、暗夜だけがあげられているのだけれども、実際に収録されているのは、7作品で、短編から中編という長さの作品群。私の知る限りでは、これが初の翻訳の作品ばかりではと思うのだけれども、定かではない。


孤立

残雪の作品に共通するのだけれども、ここに納められている作品も、その例に漏れず、いずれも、ある小さな村を舞台にして、そこに暮らす、村から孤立している人物を様々なかたちで描いている。
孤立であること
その孤立が、村から強いられたのか、自ら選択したのか、もしくは、そんなことすら意に介していないのか、それは明確化されないのだけれども、孤立している人物も、そして、その村そのものも、どこか特異であり、奇妙な印象が強い。そして、そこには、圧倒的な冷たさがあるように感じられる。例えば、孤立を超えて対話から関係の修復へと行った道のりを目指す訳でもなく、一方で、さらなる孤立にむかって激しい対立が生まれてくるわけでもない。結局のところ、それぞれがそれぞれの価値観を保持したまま存在しているというのが、結末にあるとしか捉えられない気がする。
超脱
そこには、ある意味では、人間の関係性の限界をあっけらかんと描いているようにも感じられるし、一方で、孤立のその虚しさなどは、しかし、そのままであっても何とか存在できものなのだとじっくりと描いているようにも感じられる。
それは、関係性を超脱したある意味では、達観した感覚と言えるのかもしれない。
虚しさ、強さ
そうであることは、虚しいことなのだろうか。それとも、そうやって捉えることには強さがあるということなのだろうか。コミュニティーに存在することが人間存在のデフォルトであるように思う。そのコミュニティーを無視したときには、強さがにじみ出るのか、虚しさがにじみ出るのか、それとも、ただ、それもまた存在であると、それだけなのか。
タイトル作品でもある暗夜は、そのあたりの疑問に対する一つの回答であるようにも思う。


戦争の悲しみ

同じ巻に、ヴェトナムの作家、パオ・ニンの作品、戦争の悲しみが納められていて、こちらは、これから読みます。


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暗夜/戦争の悲しみ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 全24巻(第1集)) (世界文学全集 1-6)
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