20世紀文学の大著 ジェイムズ・ジョイスのユリシーズを漸く読み終えた



ユリシーズ

20世紀を代表するとされる文学作品は数多くあるけれども、このアイルランドの作家ジェイムズ・ジョイスによるユリシーズも20世紀を代表する文学作品の一つ。
この作品は、18章構成の中で、レオポルド・ブルームとスティーヴン・ディーダラスの行動を中心に、ダブリンのある一日の様子を描いている。


実験的

この作品の最大の特徴は、その実験性。ジェイムズ・ジョイスの作品は、この作品を含めて、さらに難解なフィネガンズ・ウェイクなど文学を単に物語りを語るだけの道具として扱うのではなく、テキストの可能性を極限まで極めようとしている。
この作品では、まず特徴的なのは文体であって、18章のそれぞれがどれも、異なる文体で表現されている。通常の物語を語るような文体から、古文のような文体、羅列式の表現があって、最後は、句読点を省いた独白のような文体まで。
さらに、その文章は、ダブリンの街を再現出来るほどと言われているほどに、克明に描かれていて、一日のその様子の全てを18章の中で完全に描ききろうとしている。であるために、別の章の出来事を異なる観点で別の章で描いていたりと、時間軸を含めて、立体的に表現されている。このあたりの構成力は驚異的という言葉で表現するしかない。
ちなみに、こういった作品であるために、数多くの研究も為されていて、それぞれの章の意味合いも分析されている。また、作品には膨大な脚注が付いている。


難解

というような作品であるために、文章は容易に読めるそれではない。その一つとしては、何かの事件を追いかけながら明確な起承転結を持つような作品ではないと言うこと。そして、別の観点でいうと、文体によっては非常に読むのが困難。個人的には、古文的な文章のところは、非常に読むのに苦労して、あまり、内容を捉えきることは出来なかった。


何が故に

結果として、この作品は、では、一体何を目的としてるのだろうかと。
私自身の理解としては、メタ文学的な要素が強いというところ。文学表現とは何かというところを問いただしながら、通常の表現では捉えきることのできていない、意識の流れや、感覚・感情の複層性などを描き出そうとしているようにも思える。逆にここに描き出された一日そのものには、何か教訓めいた物があるわけではなく、何気ない一日にすぎない。ただし、その何気ない一日は、その一日のみであるわけではなくて、過去や未来とのつながりの中に在るそれであって、その一日の様々な行動の裏には、それらとの関連性があるということも、この立体的な描写によって明示されている。


超文学好き

で、これ、正直言って、他人に読むことをお勧めできるような作品ではない。私自身も、その読書スタイルが同じ時期に複数の作品を状況に合わせて読むというスタイルであって、このユリシーズは、移動中に時々読む作品という位置づけにしていたが故もあるのだけれども、これを読了するのに、3年ぐらいはかかっているような気がする。つまり、あまり積極的に読み込もうと思わせてくれるような物ではなくて、文章によってはちょっと苦行に近いところもある。
結果、超文学好きで、かつ、その文章スタイルまでも味わおうという文学の堪能の仕方をする人にしかお勧めできない作品。
ただ、多くの人に感じて貰いたいのは、文学というのは、こういった世界もあるのだと、軽い読み物も多く存在するけれども、文学の極限にはこういった世界もあるだと言うことぐらいは認識しておいて欲しいとは思う。そして、そこでは、文学表現の自由を主張するために、格闘している人々がいるのだということを。


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