膨大な戯言でもある様に、ヘンリー・ミラー セクサス



ヘンリー・ミラー

個人的でかつ性的な描写が自由奔放に駆け回る文体の作家であり、発表当時はその作品が発禁になったりもしていたアメリカ人作家ヘンリー・ミラー。そんなヘンリー・ミラーの作品集”ヘンリー・ミラー・コレクション”は、そのシリーズが始まって随分立つのだけれども、2010年6月にネクサスが発売されて遂に完結した。今回紹介するのは、そのネクサスに少し先んじて発売されていたセクサス。


セクサス

彼の作品群では、北回帰線や南回帰線が有名だけれども、もう一つシリーズ物として有名なのが、薔薇色の十字架刑と題された作品群で、今回紹介するセクサスに加えて、プレクサス、ネクサスと繋がる。
その筆頭のセクサスは、その名の通り、というか、彼の文体の通りで、性的描写が時にポルノ小説であるかの如くに登場する作品。


さらけ出す

彼の作品は、基本的には彼の経験によっていて、半ば私小説といっていいはず。ただし、何処までが真実で、どこからが脚色なのかまでは、よくわからない。いずれにせよ、彼の価値観が、実生活を通してそこに妄想も加わって、作品へと昇華されていると、そんな作品。
30代のヘンリー・ミラー。その生活がひたすらに描かれるのがこの作品。女性との交際を通じて、そして、友人との生活を通じて、しかし、そこには堕落と呼べるような物しか無くて、常に金銭に困りながらも、人々に頼りながら、愛の生活を送る。その愛も、どこか破綻していて、結婚生活はやがて別の女性を愛するが故に、離婚へとつながり、異なる生活が始まる。
何かに依存しなけれ生きていくことの出来ない人々がそこには、描かれているようにも感じられる。それは、破綻した人生であるが故に、そこへ陥ってしまうのか、それとも、そのような人生であるが故に破綻したのか。
いずれにせよ、そのとても自慢できるようなものではない人生が、ここにさらけ出されている。


作品

で、文章の内容もそうなのだけれども、文体や構成もまた自由奔放。ヘンリー・ミラーの作品を読み慣れている人ならば、特に気にならないだろうけれども、初読みだとよくわからなくなるかもしれない。というのも、彼の文章は、どんどんと飛び立って行っていて、ある状況を描いているのかと思うと、いつの間にか別の状況の描写へと飛んで行ってしまったりする。それは、そこで起きた出来事の連想として飛んでいくのだけれども、このあたりは、読み慣れないとよくわからないところかもしれない。というか、小説の概念として、明確な起承転結がある物という感覚を保持したままだととてもじゃないけど理解出来ないだろう。起承転結を超えたイメージの連鎖とその狭間にこぼれ落ちてくる思想がこの作品の味わうべきポイント。


哲学

そ、ただ、奔放な生き方をさらけ出しているだけなら、このように語り継がれる作品にはならなかったであろう。恐らく、勘違いして自由で奔放なことを描くのが破天荒でいいとだけ思っているとんでもない輩を見かけるのだけれども、ヘンリー・ミラーの作品はそこにとどまらない。
先述のした起承転結を超えたイメージの連鎖とその狭間にこぼれ落ちてくる思想こそが魅力であって、それは、哲学というにはおこがましくて、自意識過剰な戯言ぐらいに言った方がいいかもしれないテキストが書き殴られていることがとても重要。大半は、破綻した人生を描いているのだけれども、その合間合間に挟まれる独白というか、自己を見返すような描写部分に見られる文章の美しさと思考の多様さがとても感情に迫ってくる。
堕落を通して見えてくる人間の本質というのか、そのまさに過剰な自意識の部分こそが人間の本質であると主張しているかの如くの主張がとても刺激的。それは、このような堕落的な生活をしているわけではない人物にもあることであって、人はときにその過剰な自意識によって、社会生活で軋轢を感じながら、しかし、一方で、その過剰な自意識によって守られていると。


膨大

ただ、基本的には、戯言のような事が、そして、ポルノのような性的な描写にあふれた作品であることに他ならない。そのなかから一体何を読み取るのかというと、それは、しかし、読書がとてつもなく好きな人間にしか困難な作業であることは、一方で間違い無いことだと思う。
このデジタル時代にこのような膨大なテキスト(二段組みで600頁近い)が何処まで存在意義があって、何処までの人々に読まれるべきなのかというのは困難な課題であると思うし、揚々気軽に読むことをお薦めできる作品ではないことは確か。
というところで、変形した小説がおかしくなるほど好きな方にはお薦めしますが、決して気軽に手を出す作品ではありません。


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セクサス―薔薇色の十字架刑〈1〉 (ヘンリー・ミラー・コレクション)
発売元 : 水声社
発売日 : 2010-02 (単行本)
売上ランク : 549118 位 (AMAZON.co.jp)
¥ 5,250 在庫あり。
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