ヘンリー・ミラーの「ネクサス」を読み終えた



ヘンリー・ミラー

20世紀アメリカを代表する作家のひとり、ヘンリー・ミラー。その代表作の一つに、薔薇色の十字架刑というシリーズがある。そのシリーズを順番に読み進めてきて、今回はその3作目に当たり最後の作品である「ネクサス」を読んだ。


変遷

セクサス、プレクサスと前に二巻があってのネクサスで第三巻目。この三巻を通じて、主人公であるヘンリー・ミラーの分身が妻モーナとの生活の中で、一人の作家として確固たる何かを築き上げていくという展開になっている。セクサスでは、その性描写も含めて非常に過激であり、特に人間関係という面で乱れた生活が赤裸々に描かれていた。そこから、プレクサスでは、人間関係的には最愛の妻モーナとの生活が中心となり落ち着きを見せ始めるが経済的困窮もあり、経済的生活については、落ち着くことはなく、引っ越しをしながら、何とか生活を続ける姿が描かれていた。そこから、このネクサスへと続くのだが、この作品では、そのような全二巻にあった危機的とも言うべき一般的世間から逸脱した描写は影を潜めている。


落ち着いた

この作品では、主にフランスへの思いを中心とした作品であり、最終的にはフランスへと旅立つ直前のところがエンディングとなっている。
この作品では、むしろ、ヘンリー・ミラーらしからぬとさえ思えるほど落ち着いた作品。先にフランスへと旅だったモーナとその女友達ステイシャとの関係性に主人公が焼き餅を抱くようなところにのみ人間関係の切迫したとしたところが描かれるが、ステイシャを置いて、モーナのみが帰国した以降は、それまでとは大きくことなり、落ち着いた生活が描かれる。描写についても、ヘンリー・ミラー特有の、時間軸も場所も関係なくどんどんと連想から話が飛んでいくというような描写はここではあまりなされず、文体自体についても、落ち着きをはらっている。このあたりは、むしろ、物足りなさを感じさせるところもある。


読みやすさ

その意味では、シリーズの中でも最も読みやすいとも思う。順番としては狂うのだけれども、ヘンリー・ミラーをあまり読んだことのない人にとっては、この作品から読むというのも入りやすさという意味ではいいかもしれない。


作家として

相変わらず、作家となることを目指す主人公。そして、妻との生活。先述の落ち着きは、どこか、主人公の個が徐々に世間との差異を受け入れながらも、その世間とのどのような距離感で接することが適切なのかと言うことをつかみ始めたが故ともいえるのかもしれない。なので、このシリーズを通して、作家ヘンリー・ミラーが確立されていく課程を読むことが出来て、そして、この「ネクサス」によって、最終段階まで到達したといっていいのだろう。


共同体の中で

個の独自性ということがよく言われて、それを求めることがアウトロー的にかっこいいと短絡的に考える人もいるだろうが、しかし、人間は社会的生物であって、社会との関係性の中で存在する存在に過ぎない。この「ネクサス」では、そういった、社会との関係性を築ききれなかったヘンリー・ミラーが、結局はフランスへと旅立つことを選択するのだけれども、決別という距離感も含めて、社会との関係性をつかみ取ったというところが描かれているとも受け取れる気がする。その意味では、この作品が全編落ち着きに満ちているのもよくわかる。


混沌

混沌の中で何かをつかみ取るというこのヘンリー・ミラーのシリーズ、薔薇色の十字架刑は、それぞれの作品だけでも、相当の分量なので、全三巻を読み切ろうとするとかなりの覚悟が必要なところはあるのだけれども、文学をより探究したいという思いの強い方は、是非とも挑戦してみるといいのではないかと思う。

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