朝吹真理子さんという作家の”流跡”を読んでみた



話題

話題と行っても、近頃は、ネットを中心として媒体が多岐にわたるので、世間一般で話題になっているのかどうかは定かではないのだけれども、私のTL上では話題になっていて、ちょっと興味がわいたので、読んでみた作品が、朝吹真理子さんという作家の作品で、流跡というもの。


久しぶり

私自身、本を読むのは好きだけれども、比較的海外文学を読むことが多い。とはいえ、別に日本文学が嫌いなわけではなくて、好きな作品がたまたま海外文学が多いというだけです。
で、時々何かの発見を求めて、日本人の新しい作家を読むこともあるのですが、如何せん、私のゆがんだ好みに合う作家はなかなか見当たらない。ではあるものの、かといって、読まないといいものに出会うこともないということで、この朝吹真理子さんの作品を読んでみることにした。なので、久しぶりの現代日本文学作家の作品体験でもあり。


軽く

この作品全体は、ちょっと長い短編程度の長さなので、軽く読める作品。メタ文学的な要素も持った構成で、物語ることへの疑問も同時に提示しているような作品。
読むことから始まる作品は、いくつかの塊に分かれていて、エピローグ的な部分とプロローグ的な部分に挟まれて、いくつかの物語が並んでいる。


物語らず

そのいくつかの物語は、漠然としている。主人公の存在自体も不明確であれば、その舞台も不明確、五里霧中の中に垣間見えるもののように描かれ、そして、突然物語は断絶して、舞台は別のところへと移動してしまう。それは、物語を物語ることにより何かを語ることの拒否ともとれる。


文体

その構成のみならず、文体も特徴的。まぁ、海外文学の翻訳文章ばかり読んでいる私は、日本文学の文体のトレンドを全く理解していないので、実際に特徴的といっていいのかわからないですが、比較的古典的な言葉をあえて用いているように思える。昨今のアートの領域でも、日本画的な手法を現代アートに取り込むということがなされているので、このあたりは、現代の表現者に共通するトレンドかもしれない。私自身は、こういう表現手法は好みではないが、それは好みの問題。少々情緒的すぎるとは思う。


テキスト

物語ることに重点をおかなかい場合には、それに代替するものが起立していこないといけない。それは、テキストそのものの力や、構造による表現が代表的なもの。テキスト的な面で言うと、文体とともに用意している舞台を日本の妖怪談的な雰囲気を利用しているところでは、ある程度功を奏していて、比較的力をもったテキストと感じた。しかし、舞台が現代の家庭を思わせる部分については、若干テキストの力が弱くて、感情の吐露もインパクトが薄い。その薄い感情のもやもやしたところが表現したいというところでもあるのだろうけれども、印象薄だった。


構造

もう一つの構造という面で考えると、この中間に挟まれた物語のその並び順か。最初は、人間なのかどうかわからないような存在から、徐々に人間の形をなしてきて、家庭をも持つ存在になる、そこから、今度は死を感じさせる存在へと向かうと、そういうことなのか。それに併せて舞台も、現代へと向かっていくと。しかし、そのあたりの構造が、くっきりと何かの意図があるものとしては感じることが出来なかった。つまり、構造に表現強度が不足しているように感じた。一方で、別の方法としては、構造をわざと混乱させるということで構造に力を持たせるということもあるが、そういった混乱はそれほど発生してこない。それは、情緒的な文章も影響してしまっていると思う。私自身がここにあるもう少し別の構造を読めていないのかもしれないのだけれども。
あと、もう一つの構造的ポイントは、流跡というタイトルを選択した理由でもあるのかもしれないが、水が共通したものとして登場するところか。川から、水たまり、もしくは、雨、そして、海。その感覚が、大きな暗喩になっている感じがする。


挟み込む

それを、プロローグ的な部分で読むことについて言及して、エピローグ的な部分で書くことに言及して、物語ることを挟み込んでいると、完全にそうなっているとは思っていないけれども、そんな構造が透けて見える。
だけれども、結局実体がそこに感じられないというのは、この作品は、あくまで流跡を表現しているのであって、その流跡をつけた本体は対象ではないということもあるのだろうし、その実体のなさが、うやむやとした現代ともつながるのか。


期待

ということで、いろいろと考えてみるに足る作品で、読んだ価値はある。川上弘美さんの初期の作品”蛇を踏む”を読んだときに感じた期待を感じるところもあるので、絡め取られないように、さらなる飛躍をして欲しいと思うところ。


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