H・V・クライストによる短編集「チリの地震」を読んだ
H・V・クライスト
1800年代前半に活動をしていた、ドイツの作家H・V・クライスト。存命中はあまり高い評価を受けていなかったようだが、20世紀に入り、その静謐な文体に注目が集まった作家。
主に、劇作やジャーナリストとしての作品が多く残っているが、いくつかの小説も残されており、その短編集を中心に集められた作品集「チリの地震」が翻訳出版されていたので、読んでみた。
チリの地震
表題作である短編「チリの地震」からはじまる。そのほかの作品もそうだが、当時の時代背景から貴族社会を舞台としている。突如発生した大地震。地域はがれきに埋められて、そして、不本意なる罪を背負い処刑されることとなっていた女性と捉えられた恋人である男性は、この地震によって、一端は自由を手にする。
地震の街には、悲劇が渦巻いているが、しかし、一方で助け合いの感情が人々を支え始めていた。
そんななか、再び自由を手にして再会することが出来た男女。しかし、そんな二人を待ち受けていた末路とは。
冷たさと愛
そのほかの作品も、男女感の感情が中心として主に描かれている。そして、その背景には社会制度が描かれて、そして、その社会制度が男女の関係の間に微妙な亀裂を産み出す様が描かれている。その悲劇的な状況を描写しながら、作者が指摘するのは、その社会制度そのものなのか、それとも、その状況下において、その社会制度を盲信してしまう人々の態度なのだろうか。
静謐
しかし、それを明確には指摘はしない。冷静さを失わない描写は、どこまでも冷たく、感情に容易には流されない。ただただ、そこに発生している情景を描ききることで、必然的に浮かび上がる事実こそが重要であるのだとして、あくまで筆は静謐さを保ち続けている。この描写は確かに特筆すべきもである。
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