謎解きが謎を呼び続けるピンチョン作品「競売ナンバー49の叫び」を読んだ
トマス・ピンチョン
さて、新潮社より現在刊行中のコンプリートコレクションの刊行スピードに全く追いつかないままにせっせと私が読みつないでるトマス・ピンチョンの作品群ですが、今回は、「競売ナンバー49の叫び」を読んでみました。この作品は、1966年に最初に発刊された作品で、2作目の長編となる。
謎解き
この作品は、大きなくくりでいうと謎解きの探偵小説的な作品。ある日、かつてつきあっていた大富豪の死により、その遺言執行人となった女性。この女性が、大富豪の遺言を執行しようとする課程で大いなる謎に直面して、それをなんとか解きほぐそうとする内にむしろ混迷を深めていき・・・・という作品。郵便事業
トマス・ピンチョンの作品というと、歴史上の事実を元にそこに巧みにフィクションを絡めながらも、膨大で幅の広い知識によって、拡張された世界を構築し表現仕切る作風であるけれども、この作品もまさにそうで、この作品では、郵便事業が一つの題材になっている。一体何が
郵便事業は、国家により運営される独占的事業である一方で、それを私的な事業として展開し財をなした人々もいるらしい。この郵便事業というある意味では、今や日常的なものの中に深い陰謀や闘争、謎を秘めさせることにより、そこにとても面白い世界を生み出しているというのも、非常にうまいやり方だと思う。どこまでが
実際、私自身の知識が不足するが故に、どこまでが事実に基づいていて、どこからが創作に当たるのかわからない。だけれども、そうであるが故に、この作品の面白さが引き立つ。私的郵便事業と偽造切手、謎の記号、コネクション、演劇との関係性。それらの、どこまでが事実なのかという罠に、この主人公である女性も嵌り込んでいく。全ては、勘違いなのか、何かの過ちなのか、それとも仕掛けられた罠なのか。
探せば探すほど、謎が謎を呼び、むしろ多すぎる謎解きの鍵が混乱を深めていく。最早主人公には真実がわからなくなり、そして、読者の方も真実がわからなくなる。
分析
そんな謎に満ちている作品であるが故に、様々な研究もされていて、例えば、こちらのようなサイトなどがある。消えていく
確かにこれは、印象的な作品でもある。遺言として何かを得るはずであった主人公が、むしろ、様々な形で様々なものを失っていく。特に、文中でも言及されているが、彼女と関わる男性が様々な形態で失われていく。物理的にいなくなったり、精神的に遠い存在なったり。それは、やはり単にかつての恋人であるが故の復讐であるのだろうか?
謎
しかし、そうだと断定しようがない。そこが面白い。そう、この作品には膨大な情報があるのだけれども、情報が無いに等しい。この小説から何を得ることが出来るだろうか。膨大な情報が意味をなさない。郵便という情報伝達を題材とした作品であるのに。そして、そのタイトル、「競売ナンバー49の叫び」でさえ、その意味が不明。深い意味があるのか、それとも。だけれども、探らないではいられない、そして、探れば、上記のサイトのように、何かの意味をつなげられなくはない気がしてくる。しかし。
読み進む
そう、面白いのです。この謎解きの展開が。だから、ピンチョンの作品にしては、あっという間に読める作品。ただ、読み終わっても呆然とするしかないんだけれども、だけれども、やっぱり面白い、このからかわれただけのような感覚が、しかし、すがすがしい。お勧め
というところなので、ピンチョンの作品としては、短い作品だし、上記のように読みやすいそれなので、ピンチョン入門編としてはもってこいの作品だと思います。関連リンク:
トマス・ピンチョン全小説|新潮社Main Page - Thomas Pynchon Wiki | The Crying of Lot 49
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