MOTアニュアル2008「解きほぐすとき」



恒例の

東京都現代美術館にて、毎年開催されている、MOTアニュアルは、比較的若手の作家から数人選択し、テーマを絞って、一年を表現するような展示を行う企画。今年のタイトルは、「解きほぐすとき」。


うまい

毎年思うのだけれども、この展示における作家の選択はとても統一感があって、それぞれ、テーマに対して異なる視点が注がれている感じで、とてもうまい選択だと思う。
今回は、全体的には、”曖昧な境界線”というのが強く感じられる展示。その”曖昧な境界線”に対して、表現によってアプローチし、「解きほぐす」という捉え方なのかもしれない。
では、順番に各作家の印象をまとめていく。


彦坂敏昭

情報無く見ると、抽象絵画に見えるのだけれども、しばらくよく見ると、それが何らかの風景に見えてくるし、その境界を構成するがたがたとした線は、明らかに錆を連想させて、人工的な直線と、それが蝕まれていく様子なのだろうかと、想像がふくらむ。フラクタル画像的でもあるようにも感じられてくる。実際に情報を読むと、実際の景色に対して錆が発生するといった制作過程を経ているらしい。それをもって、人工的な物が崩壊に去れされる様を描いているというのは、少し短絡的過ぎるのだろうが、本来境界として存在していた物が、錆によって境界が曖昧になり、有限であったはずの境界が、複雑系的に無限である境界に変貌するというあたりが、まさに”曖昧な境界線”。それでもそこに残存する形状というのは、という問いかけが、どこか美術とは何を表現するのかという事をも問いかけているようにも感じられる。


高橋万里子

写真作品でありながら、わざとぶれやぼやけを出している作品。これも、ぶれやぼやけが、”曖昧な境界線”を生み出していて、一方で、例えば、そこに映し出されている物は、撮影者にとってはなじみ深いそれでありながら、鑑賞者にとっては、明らかに全く関係のないそれであるもの。それをあえて撮影し、展示すること、それを鑑賞すること、その間にある、関係性のずれが、そのままぶれやぼやけによって表現されているようにもとれる。


金氏徹平

こちらは、明らかに、”曖昧な境界線”が感じられる作品。まるで、国境線か、地形図かのような一本の直線が、壁を這い回る。一方で、様々な白い物を撮影した写真と、白いペンキがしたたり落ちそうな状態で固化した作品。したたり落ちそうなその境界。そして、塗り絵の切り抜きを集めたような作品についても、塗り絵とは、つまり、境界線のみで構成された画像であって、そこに塗り込まれることで何らかの物に変化するはずなのだけれども、しかし、塗られていないそれは、境界線だけの存在。その他、様々な木による構成や透明プラスティックの構成、キノコ画像による構成など、作品自体も何処までが作品の領域なのかが不明確で、そこまで入り込んでいいのかどうかも迷う。そこには一方で、崩れそうで依然として存在する境界線という存在も裏側に見えてくる。


手塚愛子

織物による作品。織物として、本来は完成されている物から、糸を紡ぎ出して、本来は2次元に埋め込まれていた何らかの模様を破棄して、3次元的な装飾へと変化していく様子。さらに、部分的に横糸が剥き出しにされた作品。織物という存在が、つまり、複数の色糸から構成されていて、織物中には、様々な境界線があって、しかし、それらが遠景からすると、”曖昧な境界線”に変貌することで、模様へと変化することが示し出されているようにも感じる。


立花文穂

紙に書かれた点であったり、模様などが適当に繋げられたるなどして、接続された末に何らかの形状を示しているかのように構成された作品。少し前までは、系列的な羅列という展示方法がよく見られたのだけれども、この作品は、その系列的な羅列に対して、結局いくらやろうとしても、系列的な羅列でさえ完璧な多面性からはほど遠く不完全である事を指摘しながら、そのような方法論を放棄して、適当な羅列によって、多面性を提示しようとしているかのようでもある。くしゃくしゃにされた紙であったり、繋げられている紙が同質の物ではなかったり、羅列的に並んでいるようで、結構適当に並んでいるだけであったり。あえて、そうしているところに、羅列の限界性を指摘しながら、異なるある種の偶然も含む面白さの提示があるようにも思う。それは、羅列によって、境界線を消し去ろうとしたけれども、それは不可能であって、常にそこには境界線があるのだけれども、それを”曖昧な境界線”として消化し、認識した上で、それを受け入れるべきと言っているかのようでもある。


まとめ

ということで、今回の展示は、かなり良い展示だったと思う。強烈なインパクトある作品に頼るのではなくて、一見地味でもあるのだけれども、その裏側には非常に強い意志と洞察力が隠れていることを感じさせる作品ばかりだったのは、とても好感が持てる。まさに、「解きほぐ」される感覚に浸ることが出来る。


蛇足

ちなみに、私は平日の昼という、現代美術にとっては、最も鑑賞者が少ないだろうタイミングで見に行ったので、非常に静かな環境の中でゆったり鑑賞できたので、その環境自体も非常に良かったです。
それから、同時開催の川俣正「通路」展も同じ日に行ったのですが、それはまた後日エントリーします。


関連リンク:
dLINKbRING.Art.東京都現代美術館
東京都現代美術館:MOT
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