友人を横糸に語るヘンリー・ミラー「友だちの本」

ヘンリー・ミラー

自由奔放な人生を自由奔放でありながらも、フラットで正確な描写で描く作家、ヘンリー・ミラー
そんな彼らの作品群から友人について書かれたものをまとめたものが、水声社から出版された「友だちの本」。
「友だちの本」「ぼくの自転車、そのほかの友だち」「ジョーイ」「わが人生におけるほかの女性たち」が含まれる。

横糸

ヘンリー・ミラーの人生はすでに彼自身の多くの本で描かれれているが、この作品は、友だちを通してみえるいわば横糸のような作品。
彼の代表作において、描かれてきた世界を違う視点から眺め直す、そんな趣をもった作品とも言える。
なので、彼の作品をある程度読み通してから、この作品を読むべきというところはあるだろう。

自由で、しかし、フラット

ヘンリー・ミラーの作品というと、自由な書き方や赤裸々な内容に目が行くが、それは違う言い方を使うと、フラットであるということ。
完全に主観が抜けているとまでは言うつもりはないが、どんな事象も、飾りすぎることなく、正確にフラットに描きあげている。
ここが彼の作品の魅力であって、我々の人生における他社との関係性の中では包み隠したらい、むしろ大げさに語ったりしてしまう要素が、
すべて、ある意味、淡々と描かれていく。このフラットさが、我々が日常生活では失っているものを、補正してくれる。

真実なき世界

おそらく、彼の生きていた時代には、紙媒体がメディアの主流の一つであっただろうし、
そこでは情報が不足しているがゆえの真実なき世界であったのだろう。
その意味では、いまやこの彼の正確でフラットな記述と、様々な芸術家との交友は、歴史的な記録としても意味を持ちそうだ。
また一方で、この現代はインターネットによる過剰な情報による真実なき世界に突入している。
先述のような、フラットな表現は駆逐され、過剰に演出され隠蔽された虚飾の表現が跋扈する。

皮肉

発禁処分までうけ表現者の敵でもあるかような扱いを受けた彼の作品が今の時代から見ると、
むしろ、正確な表現で真実に肉薄した貴重な表現者であり、今の時代には別の刺激を感じるところは皮肉であり、
これこそが時代と価値観の変化であるとも感じさせられる。

これもまたいい

彼の代表作郡からすると、こぶりな作品ではあるが、アナザーストリートしての面白さがあるので、
彼のファンにはぜひ面白く読めるだろう。