ノーベル賞作家莫言の初期作品「天堂狂想歌」
莫言
ノーベル文学賞を受賞したことで、日本でも多少は知られるようになったであろう中国の作家 莫言。その初期の作品、「天堂狂想歌」が出版されていたので読んでみた。ニンニクの芽事件
この作品は、実際に中国で発生した蒼山ニンニクの芽事件をベースにしている。この事件は、地方政府が購入することを約束し、農民にニンニクの芽を生産させたものの、市況の変化によって、買い取ることが出来なくなり、結果として農民の暴動へとつながった事件。地方政府に反抗すると言うことが御法度な中国においては、このような事件は衝撃を持って多くの人に受け入れられたという。
高馬と高羊
多くの登場人物が登場して、章ごとにその主人公が変わるように構成された作品。時間と場面が前後交錯しながら、物語が語られていく中で、作品全体を通して主人公と言えるのは、高馬と高羊だろう。この二人は、明らかに対照的な人物として描かれている。それは、この名前が「馬」と「羊」であることにも端的に表れているのであろう。
地方の社会
この物語は、そのニンニクの芽事件へと収束する形で描かれるが、そこだけではない、地方の社会も大きな題材である。三家族を交差するように結婚を行うという制度。女子よりも男子を重視する社会。社会制度改革により地主と農民の立場の変化。権力による事件のもみ消し。死者同士の結婚。などなどの社会のひずみが、この作品に登場する人物たちを悲劇へと突き落としていく。
反抗する
そして、高馬のほうは、軍でも活動したというその恵まれた体格もあってか、その社会制度に反抗し続けているように描かれている。しかし、であるが故に、恋人をそして、その腹の中の子供をも失い、財産さえも奪われんとする。受け入れる
一方で、高羊のほうは、完璧ではないながらも、家族をもち、子供も生まれて、そして、恵まれ無いながらもなんとかその社会で生き延びていこうとする。結局
結局のところ、しかし、この物語に登場する人物は、悲惨なほどに誰もが悲劇へと陥って行く。結局淡々と物事を受け入れた高羊だけが、なんとか無難に逃れたというようにも写る。しかし
この悲劇的な結論というのは、やはり、中国社会への作家の怒りの所以なのかもしれない。生きるにはただ受け入れるしかないというその現実似たいする。一方で、生き延びるには、時にそのような手段をとるしかないという事実をも描き出しているとも捕らえることが出来る。制度主義
結局、その古い社会の因習にしろ、地方政府による支配にしろ、制度を守ることが先に立って、そこに暮らす人々のことを考えない制度主義には、限界があり、結局悲劇しか生み出さないということだろう。しかし、何故か人は、多くの場合、制度を守ることを重視してしまう。
感情的
そのあたりの雰囲気がうまく描き出された作品であり、かつ、先述のように章ごとに時間と舞台が交錯するような構成と成っていることから、先が気になって読み進めることが出来るようになっているというエンターテインメントとしては、非常に面白い作品にも成っている。しかし、一方で感じるのは、ちょっと感情的過ぎるというところ。読み進める上では面白くていいのだけれども、感情に流されてしまい読んでしまうところがある。このあたりは、初期の作品であるが故であるのだろう。
面白い
逆にその意味では、莫言作品の中ではきわめて読みやすい作品でもあるので、莫言作品を読んだことのない人にとっては、まずは読んでみる作品としていいかもしれない。関連サーチ:
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