優れた前衛短編集 カッコウが鳴くあの一瞬:残雪



1.中国の女性作家
残雪は中国の女性作家で、”残雪”は筆名。知る人ぞ、知るという感じもあって、現時点では中古屋さんを回らないと日本語作品はなかなか手に入らない。
カフカなどとの共通点を語られるなど、前衛度が高く抽象的な作風。


2.優れている
この”カッコウが鳴くあの一瞬”は、1980年代後半頃に執筆された短編小説を集めた物。かなり小振りな作品が9編収められている。
いずれも、中国の農村を思わせる舞台設定がされてはいるのだが、そこに描写される出来事は、どこか不思議なところばかり。物語が、何を描こうとしているのか、つかめそうで、どうにもつかみきれない。確かにはっきりとつかめる何かはそこにはないように感じられるのだが、しかし、どこか何かに不足や不足を感じる人々の様子が何となく浮かび上がってくる。この何ともいえない、説明しきれない感情を浮き上がらせてくれるというところにこの作品の面白さがあると思う。えてして、物事の多くはドラマティックとは正反対の状況の中で、どう振る舞えばいいのか判然としないままに、手探りで進んでいるだけ。そこで感じる事の多くには絶対は無くて、なんともいえない感情が散乱していく。そう、まさにそういった感覚がうまく練り込まれた作品が、この短編集には収録されている。


3.短編
そもそも、個人的には、短編は破綻が許される作品形態というか、むしろ破綻する事によって成り立つ作品形態とさえ思う。そして、その破綻を利用しながら、どうにも表現仕切れないけれど表現したい感情を描き上げるのが短編だと思う。そういった意味では、まさにその要素をこの残雪による短編は満たしていて、この作品を読むと今ひとつはっきりとはわからないながらに、何かが内部に放り込まれるという感覚が残る。
これは見事な作品だと思う。中国の作家というと、莫言が最初に思い浮かぶけれど、残雪も注目すべき作家だと思う。


関連リンク:
中国現代文学と残雪
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カッコウが鳴くあの一瞬
発売元 : 河出書房新社
発売日 : 1991-06 (単行本)
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