莫言の”転生夢現”は”百年の孤独”に匹敵する一族物語



中国

現代中国の作家でノーベル賞に最も近いアジア人とも評される莫言。その日本語翻訳版としては2008年に出版された最新作”転生夢現”を読んだ。ちなみに、中国では2006年ごろに”生死疲労”というタイトルで出版。


一族の物語

莫言の長編はどれも長いのだけれども、この作品も同じくで、上下巻に渡る大著。この大著に渡って一族の物語が語られるのだけれども、ただ語るだけではないのが、莫言莫言たるところで、この一族の発端と言うべき西門鬧が動物として次々と生まれ変わってメインの語り手となる。ちなみに、その他に、藍解放が語り手となり、また作中人物として”莫言”が登場し、作中に用意された”作品”が引用されると共に最後の場面の語り手となる。


半世紀

そして、1950年から2000年に至る半世紀に渡る物語が語られる。この時代経過の中で、西門鬧はロバ、牛、豚、犬、猿、大頭の人間へと生まれ変わりながら、その一族の周りに常にいて、物語の語り手として、時代変化における一族を取り巻く境遇の変化を中国の歴史的な変化を背景に感じさせながら描き上げていく。


変化

この作品、こんな表現をするのは何だけれども、良くできている。例えば、この作品の中心的な話題でもある転生。転生する動物がどこか、この一族を取り巻く変化、つまりは中国の歴史的な変化を象徴しているところもあるようにも感じさせるところ。この一族を取り巻く社会環境は、農耕からはじまり、その農耕の形態が変化して、その後牧畜へ、さらに、会社経営へとの展開。そして、そこには産業の変化と共に、政治環境の変化もある。一族はその政治・社会環境にも巻き込まれながら、時に反目し合い、時に利益を分け合いながら、その頂点に近づきながらも、どん底に落ちてと、時代の変化にともなって、一族のそれぞれの人物がその立場を変化させ、生活様式も変化していく。
これは、同時この転生の意味するところが、この動物として変化していくという意味だけではなくて、一族のその境遇自体のダイナミックな変化にもあるように感じさせる。


個人

さらに、興味深いのは、それぞれの個人の選択基準。時代の変化とともに選択基準が社会的、政治的事情かた個人的な事情へと変わっていくところ。毛沢東主義から、個人の恋愛による選択へと。


マッチョな動物

一方で語り手である動物の境遇だけれども、転生を繰り返しても、常にマッチョな存在として、動物界では一目おくべき存在であり続ける。そして、この動物としての立場も徐々に変化していって、ロバ、牛時代には特筆すべき存在でありながらも孤高の印象が強かったところが、豚、犬となってくるとグループを統率するリーダーとしての存在へと変化する。猿としてはほとんど描かれてはいないのだけれども、ここではまた孤高の存在となっている様に思われる。この動物として、マッチョでありながら、その動物社会における位置づけの変化もまた、全体の物語に対して、アクセントをつけると共に、何かを象徴しているようでもある。


ガルシア・マルケス

莫言というとガルシア・マルケスがしばしば引き合いに出されるけれども、この作品を読むと、どうしても、ガルシア・マルケスの”百年の孤独”思い起こさずには居られない。
百年の孤独”もある一族をその時代における変化も交えながら描きつつ、最後には赤ん坊が登場するという展開となる。当然、莫言がこの作品を知らないわけはないので、勝手な憶測をしてみると、全体の構成において、どこか、オマージュというのか、意識したところはあるのではないかと思いたくなる。まぁ、私の勝手な憶測はおいておいて、しかし、この”転生夢現”は間違い無く"百年の孤独"と並び称されるべき作品だと思う。それは、この二つの作品が類似しているという意味ではなくて、似て非なる物としてそれぞれにそれぞれのすばらしさを持ちながら、時代の変化と個人の変化を描き上げているという意味としてである。


とにかく傑作

これ、とにかく傑作だと思う。莫言の作品は全て読んだわけではないけれども、”豊乳肥臀”を読んだ時にも非常に衝撃を受けたけれども、この作品はそれをも凌駕する面白さと示唆を含んでいる。


関連リンク:
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