莫言:四十一炮



1.概要
大作の多い莫言氏ですが、今回も上下巻に渡る大作。ある少年の語りとその語りの場の周囲で起こる出来事をラップさせながら作品が展開される。その少年の幼年期から現在までに至る過程なので、おおむね10年あまりの歳月が描かれていることになる。


2.異なる誇張
莫言というと、「豊乳肥臀」などにあるような、農村における情景を誇張して描きながらストーリーを展開させていくガルシア・マルケス的手法が思い浮かぶが、この作品もそのように誇張された農村世界が描かれる。ただ、誇張の仕方が少し違って、少年の語りを通して描かれるということ
なので、少年による誇張(ほら。炮にはほらの意味もあるという)であるとも捉えることが出来て、一つ段階をおくことで、誇張による表現そのものを表現しているという構造であるとも捉えることが出来る(これは、作者自らが後書きで解説してもいるところ)。そのあたりは、意欲的な作品というか、今まで蓄積してきた方法論の流用ではないところ。


3.作品の出来
3.1 ほらなのか
ただ、正直にいって、それが何処まで成功しているかというと、少し疑問に感じる。というのか、結局少年の「ほら」だからというところが、どこかで言い訳としてあるせいなのか、全体的にどうも感情がのらない。ストーリーとしてのつながりはあるけれど、感情としてのつながりが欠けているのではないかといえばいいのだろうか。むしろ、ストーリーの語りのうまさが感情を深みへ持っていくことの妨げとなっているような気もする。それとも、ほらというところが結果として、全ての関連性や構造を分析することを拒否させてしまっているというべきかもしれない。
3.2 ほらではないとして
ここから何かを読み取れないわけではない。例えば、近代的制度が確立されきっていない時代の村から、徐々に近代的制度が入り込んできて、株式会社へと変貌していく様子。その間に変化していく価値観とそれに伴う利害関係の変化。しかし、それでもそこにおける権力のトップ(老蘭)には変化は無く、むしろ、その力をどんどんと強靱にしていく。その権力への反抗的態度は、結局何も得ることもないままに、むしろ、その中へ取り込まれていくことでその権力の傘の中に生活を見いだす人々。主人公の父母はまさにそうだ。勿論、それらの反抗分子を単純に駆逐するのではなく、取り込めるものなら取り込んでしまうという権力の柔軟さというかどん欲さというかという側面もある。徹底抗戦を決め込んだ少年だが、どうやっても太刀打ちできない。そして、最後は、大砲をぶっ放しまくる。しかも、その大砲の影には日本軍への反抗がある。そこに深い意味を恣意的に込めていると言うことは無いだろうが、象徴的な意味が見え隠れするような気もする。全てが破壊されていく。全てが破壊し尽くされて、そして、漸く終結に向かう。少年の語りも、そして、その少年の語りの場も、その少年の語り場の周りで起こっている出来事も。そして、まるでカーテンコールであるかのように、登場人物が総ざらいでやってくる。それともやはりそれが、封印されているようで、封印されていない反抗分子なのか。それとも、あの世なのか。
3.3 むしろ
ほらではないとして、そのように捉えることの方が、まだ何かを感じることが出来るように思う。ただ、そのような展開であれば、この作品自体の重要度はそれほど高く無いというか、驚くべき発見を秘めた作品として評価することは出来ない。ストーリーの展開も面白くて、社会の様子をある側面からうまく描き込んだ作品に過ぎないという評価に終わってしまう。
3.4 やっぱりほらなのか
となると、そのほらという要素がどこまで作品全体に影響を及ぼしているかが重要になってくる。しかし、やはりその部分が、少なくとも私の読解力では感じることが出来ない。それとも、このほらであってもほらでないにしてもいずれもただそのように描かれた出来事に過ぎないという小説の虚しさが表れてきているとして捉えるべきなのだろうか。何かもうひとつ仕掛けがあればということを感じずにはいられない作品。
3.5 ストーリーテリング
ストーリーテリングの手法のほうは、さすがという感じで、かなり全体的に面白さがあって、次々にページを進んでいきたくなる。2冊ものという分量だが、案外あっさり読める。


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四十一炮〈上〉
発売元 : 中央公論新社
発売日 : 2006-03 (単行本)
売上ランク : 185934 位 (AMAZON.co.jp)
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