じんわりと染み込んでくる映画です 「ソフィアの夜明け」



ソフィアの夜明け

ブルガリアからやってきた、孤独をかみしめるような映画、ソフィアの夜明けを見てきた、イメージフォーラムにて。
この映画は、カメン・カレフ監督による映画。そのタイトル通り、ブルガリアの首都、ソフィアを題材にした映画。ある男。木工所で働きながら、しかし、彼女とはうまくいかず、一方で、芸術家としての才能を内包する。裕福ではなく、満たされない生活。その彼の背後にある家族との関係。病。





青春映画

この映画の予告編を見たときは、甘ったれた姿をさも繊細な精神として描いてしまう青臭い青春映画かと思って、見る気はしなかったのだけれども、どうも世間での話題からすると、そんな単純な作品ではなさそうだと言うことで、見に行くことにした。
主人公は、中年にさしかかろうかという男。この設定が何とも憎らしい。20歳前後の青さが前面に出るわけでもないし、人生に疲れ切った、もしくは、人生を生き抜ききったような年齢でもない。可能性の限界と、可能性への執着が入り交じりながらも、その年月に積み上げられてきた負からも逃れられない、そのような印象を受ける男。青春とはとてもいえるものではない、だけれども、男の哀愁とも表現することの出来ない、この微妙な感情。明らかに青春映画ではないが、青春映画と名付けたくなるそれが、なんとも。


不安定

そして、男の精神状態は、不安定である、この映画の中では終始。仕事も、私生活も、家族も、どれもが安定性からは離れている。それは、自らが選択したわけではないものもあれば、自らが選択してしまったものもある。そして、この国も、この街も不安定。他民族の排除を起点とした暴力。それを利用する、政治。一方で、開発も進んでいこうとする、その街。


トルコ

とんでもない状況で、遭遇したトルコ人家族。その家族の少女。この少女は、明らかに、青臭い。それは、恵まれた家族を持つからなのだろうか。その対称性。それは、ブルガリアとトルコの対称性でもあるのか。余談だが、地理に疎い私は、ブルガリアとトルコにどの程度の関連性がと思ったのだが、地理的には隣り合う国なのですね。


蠢く中で

街は蠢いている。その中で、その一員なのか、それとも、取り残されているのか、彼は。この男の持つ不安定さは、アイデンティティの欠如でもあるのかもしれない。そのアイデンティティの欠如は、その根幹である場所が不安定であったからなのか。そして、それは、ブルガリアの国歌の現状をも、暗示しているのだろうか。それでも、街は蠢いているし、おそらく、彼は取り残されてはいない一員であるのだろう。


渋い

つまり、いい映画です。宣伝文句で使われるような安易な言葉が許せないくらいに、筆舌に尽くしがたい作品です。なんというのか、感情にぐっと入ってくる映画。私の中にある不安定さをくすぐるような作品。我々は、ぐっと何かにこらえ、何かをかみしめながら、生きているのだと、それは、ソフィアにおいてのみではなく、どんな街にもあり得るそれとして。本当に、こう、ぐっとくるといういい加減な表現でしか、この映画を表現できない。


音楽

余談だけれども、音楽もまた、いいです。メタルなサウンドや、民族ロックなサウンド、バッハ。


後に残る

そして、この映画、余韻が続きます。見ている間に何かを強く感じるというのではなくて、見終わった後もしばらく反芻するように思い出してみると、さらにその味わいがしみこんでくるようなそんな映画。予想以上にいい映画で、個人的には、今年のベスト候補な映画です。


関連リンク:
映画『ソフィアの夜明け』公式サイト
イメージフォーラム・ダゲレオ出版/シアター・イメージフォーラム
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ソフィアの夜明け(flickr)
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