そして、ついに、正に、安部公房全集を完読する



補巻

まれに見るかっこいい文学全集といっても言い過ぎではないであろう素敵な装丁に収められた安部公房全集は、編年体で編集されていて、第29巻をもってして、安部公房氏の生涯にたどり着いた形で一度幕を閉じた。その後、補巻としての第30巻の予告がありながらも、随分と長い間出版されぬまま、もう出る事は無いのではないかと思われた2009年、遂に出版された。つまり、遂に最後までたどり着いたわけである。


補遺そのほか

この最終巻は、諸般の事情でいままでの巻に掲載漏れしたものを収めている他に、これまでの巻の目次に当たる部分や、過去の出版作品のデータなどが収められていて、どちらかというと、読み物というよりは、資料集に近い物。ただし、少ないけれども、ここに初出の作品は興味深い物があって、一つは、あの名作「砂の女」の海外映画用に少し書き直されたシナリオと、「他人の顔」のこれも映画用の別編のシナリオ。両方とも、実際には、制作されることの無かったシナリオなのだけれども、とても興味深い物であることは確か。


伝記

そして、もう一つ興味深い読み物は、安部ねりさんによる「安部公房伝記」。そういえば、安部公房は、その作家としての位置づけにもかかわらず、作家自身について語るような書籍が驚くほど少ない作家でもある。そんなこともあって、短い伝記ではあるもののとても興味深い文章。
作家安部公房の誕生前から、作家としてその位置づけを確かな物にし、そして死ぬまで。


CD-ROM

そして、この補巻の面白いのは、CD-ROM付きであるというところ。これによって、デジタル的に、目次検索が出来たり、それから、安部公房撮影の写真を見ることが出来たり、で、さらには、録音された安部公房氏の生声が入ったインタビューが音声で聴けるというものになっている。このあたりの細工も、ワープロを真っ先に使った作家でもある安部公房にふさわしい出来になっている。


安部公房と私

私は、安部公房の他にも、とても好きな作家は何人かいる。けれども、やはり安部公房はちょっと、特別。私にとっては、扉のようなものであった。この自由で、しかし、厳密な世界は、青二才な当時の私には、あまりにも衝撃的で、そして、あまりにも多くの物をもつものであった。多くの今日の私自身の価値観は安部公房の作品に出会ったときから始まったと言っても過言ではない。
そんな作家の全集を、ついに、正に完読してしまったというのは、もう、これ以上新鮮に安部公房の作品に触れることはないという寂しさも含む物ではある。


天才

しかい、世の中には天才という存在がある。その恐ろしいほどの才能を前にすると、自分自身の小ささといじらしさが溜まらなくなってくる。だから、この才能の一端に触れることで、しかし、別の活力を得るという次第でもある。




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安部公房全集〈30〉1924.03‐1993.01
発売元 : 新潮社
発売日 : 2009-03 (単行本)
売上ランク : 150965 位 (AMAZON.co.jp)
¥ 8,400 在庫あり。
評価平均 : /2人
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刊行開始から12年・・・感涙の完結
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