信じる物を求めて This is England はすばらしい映画でした

宣伝文句

「最高のイギリス映画の一つ」などといった、宣伝文句に引きずられて、どんなものなのかという半信半疑の元に見に行くことにしたイギリス映画、その名も"This is England"。
渋谷は、シアターNで散りかけの桜が美しく舞う坂道の中腹にある、かつてはユーロスペースだった映画館にて。

すばらしい

そして、一言、なんというすばらしい映画だったろうかと。確かに、これは歴史に残ろるべき作品だと思う。それほど話題にはなっていないのが不思議なぐらいの完璧さをもつ映画。

主人公、舞台

イギリスの田舎町。ある少年が主人公。その少年の青春と成長を80年代ロックのもとに描いたというと、とても陳腐でありきたりな作品に聞こえてしまうと思う。私もそうだった、そう思ったけれども、見に行くことにした。
そして、そんな物ではなかったことを発見したわけです。
以下ネタバレの危険性大になると思うのでこの時点で見ることを決めた人は、以下は読まない方がいいかも。

孤独

父親が家に居ない少年。ちょっとしたいじめ。そして、街の不良たち。その街の不良たちとの出会いから物事が動き始める。何か心の中に空白を持つ少年は、その不良たちの中にいて、その仲間意識の中に、自らの存在を感じ始める。そして、恋があって。これだけであれば、ただの本当に、青春映画にすぎない。一方で、映像と音楽の使い方がすばらしくて、このありきたりな青春映画的な展開でありながら、しかし、どこか心地よさを感じさせる。いずれにせよ、そこにある仲間意識。確かに、それは友情だろうし、たしかにそれは、愛情でもある。

信じる物

そこにやってきた男。その仲間の中に入り込んできて、そして、やがて愛国心の名の下に、人種差別的行動を行う政治団体の一員としての活動へと誘い込む。少年の置かれた状況が、その活動を支持することとなり、少年もまた活動へと入り込む。
しかし、それはあっけなく、確かに、ありきたりであるが、崩壊を迎える。
それは、その活動を勧誘した男の崩壊によって。
その男は、問題を抱えていた。恐らく、家庭的な。さらに、求める物を、ことごとく手に入れることが出来なかった。彼には、信じるべき物がなかった、だから、彼は愛国心を過剰に信じることを選択したのだと思う。だけれども、それは、彼を満たしはしなかった。そして、事件が起きる。

少年

少年は、その様子を体験し続ける。少年もまた、失った物があった。だから、もしかすると、その男と同じような選択をする可能性を持っていたのだと思う。だけれども、その事件のおかげで、彼は、決別する。きっと、彼は一人、強く生きていくことになるのだと思う。

信じる物

疑いのない場所で、満たされた世界がどこかにある。満たされない世界を生きる事になる人もいる。だけれども、それは、他を崩壊させることよって、満たそうとしても、結局不足のままで。例え満たされていなくても、踏ん張って、満たしていくように努めるしかないのだと。人生という物は、運と不運に揺さぶられ続けられる物だから。
信じる物がなければ、どうすればいいのかと。確かに、それは難問かもしれない。生まれながらに、信じる物を持つ場合もあるし、そうでない場合もある。人は、信じる物を欠くと不安定になり、闇雲に信じる物を無理矢理見つけてしまう物でもある。
時にそれは、芸術が代替してくれることもある。時にそれは、何か他の物かもしれない。いずれにせよ、適切な何かがあるはずで。