エミール・クストリッツァ監督の伝説的名作「アンダーグラウンド」再上映を見た



アンダーグラウンド

ユーゴスラヴィアの映画監督、エミール・クストリッツァ監督による作品で、20世紀最重要作品の一つとも評される映画「アンダーグラウンド」がデジタルリマスターされて再上映されているので見に行ってみた。渋谷のシアターNにて。
ちなみにこの作品、かつてDVD化されているが、現在は廃盤状態でプレミアがついている。私は幸運にも当時購入できた。私がこの作品を見たのは、このDVDのみであって、劇場で見るのは今回が初めて。





エミール・クストリッツァ監督

エミール・クストリッツァ監督は、カンヌでパルム・ドールを二度受賞するなど高く評価されている映画監督。また、音楽活動も行っていて、ノー・スモーキング・オーケストラというバンドでの音楽活動も行っている。このバンドは来日公演も行ったことがあるのだけれども、私はこのときは見に行くことが出来なかったのでとても残念。サウンド傾向は、映画の中に使われているサウンドと同じで、ハイテンションバルカンサウンドをベースにしたロックともジャズともつかない独自のものである。


名作

ということで、映画「アンダーグラウンド」の方だけれども、この映画はユーゴスラヴィアを舞台にした映画で、様々な外部勢力や内部での民族闘争の末に崩壊していったユーゴスラビアの深刻な運命をテーマとした作品。
戦争における闘争の中で、また、親友同士ながらも一人の女性を奪い合う中で、反目しあい、騙しあい、助け合い、だけれども結局崩壊していった仲間関係を描いた作品。それは、正に最終的には分裂していったユーゴスラヴィアを象徴しているようでもある。


地下

ナチスに対する闘争において、党員として活動しはじめた親友二人。やがて党幹部となり、そして、美しき舞台女優を連れ去ることに成功し、そのまま反ナチス運動を続けると思われたその二人。しかし、片方の男が負傷したことを期にこの男と、そして、他の隠れている仲間たちを地下に閉じ込めて、自身はその女性と優雅な暮らしを送ることを選択した男。しかし、やがて時は流れナチスは敗北し、この男は闘争の英雄となる、親友は死んだことにして。ただ、そこでは終わらず今度は内線が勃発し、ユーゴは解体していく。その事実を知らされていない地下の人々はしかし、ある事件を期に外に出ることが出来るのだが、そこには自分たちの信じたユーゴはなく、崩壊している現実にであうことになる。話しは、そこから急展開し、そしてつじつまを超えた展開を見せ、内線の現場で武器商人となっていた男と女、そして、軍事作戦の指揮をとっている親友。戦場に迷い込んだ男の弟。そして、男は弟に殺され、親友に焼かれる、女とともに。しかし、その親友もまた死を迎えることになる、指揮官はユーゴスラヴィアだ、この大地だという言葉を残した後に我が子を探して。


祖国

我々は、自分で思っている以上に祖国に対して愛情を持っている。さらには、生まれ育った土地に対して愛情を持っている。奪われた経験をしたことのない人間にはそれを切実に感じることはないだろうが。その祖国が常に内外からの動乱に見舞われ続けているとしたら、アイデンティティはいかなるのか。
その祖国を守ろうとする闘争の末に、しかし、祖国の存在を失い、仲間も家族も失っていく人々。ここではそれが描かれている。その悲劇。


喜劇

しかし、この映画がそんな悲劇に嘆くだけの同情を引こうとするのみではないのは、一方で、映画全体にわたってハイテンションバルカンサウンドで埋め尽くされていて、そのハイテンションサウンドとともに喜劇的演出が随所になされていることによるのだろう。その結果として、深刻さは、時にどこかに隠されている。そのおかげで、悲劇が決してわざとらしい偽善ではなくて、くっきりと浮かび上がってくるところがあまりにもすばらしい演出過ぎる。


一つの島

そして、最後は、その仲間たち全員が集まる。そして、その全員のいる場所が、本島から離れて一つの島となって流れていく。あまりにも象徴的な最後の情景も、しかし、またも、ハイテンションバルカンサウンドで埋め尽くされた喚起の場となっている。こうして、政治的な要素が、しかし、ぎりぎりのところで人間喜劇として描くところに留められているところがなんともすばらしい。


女優

映画自体もすばらしいのだけれども、主人公の三人のうちの一人、エミリア役の女優ミリャナ・ヤコヴィッチの演技がこれまたすばらしい。演技だけではなくて、ちょっと宮沢りえっぽくも見える美貌もすばらしいのだけれども。
酔いどれななかで、ハイテンションバルカンサウンドに併せて踊る姿は妖艶であるとともに狂気的でもあってすばらしいという言葉しか出てこない。
他の映画にはあまり出ていないようではあるけれども、私の最も印象に残っている女優の一人。


是非とも

2011年10月21日までは、渋谷のシアターNにて上映しているみたいなので、この映画是非とも見ることをおすすめします。20世紀最高の映画の一つであることは間違いありません。
本当に、映像も凝ったセットで雰囲気が十分にあって、そして、騒々しいサウンドのハイテンションが耳に響いてきて。映画の中の映画です。


黒猫白猫

ちなみ、この上映を記念して、この監督の別作品、黒猫白猫も上映していたので、こちらも見てきました。アンダーグラウンドが政治的に物議を醸したこともあって、政治色を抜きにして喜劇にこだわりきった作品が、黒猫白猫。こちらも、また喜劇に徹したおもしろさと、アンダーグラウンドと同様に、凝った面白いセットとバルカンサウンドに包まれた世界で、こちらは、気軽に見ることの出来る映画でした。


関連リンク:
エミール・クストリッツァ監督作品 『アンダーグラウンド』
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