あの衝撃から7年 「愛おしき隣人」



ロイ・アンダーソン

7年前。ロイ・アンダーソン監督の「散歩する惑星」を見た。何も起こらない出来事。断片ばかりをほとんどつながりのないままに、羅列されたナンセンスな笑いとも風刺とも何ともいえないゆるい世界。
あまりにもの訳のわから無さに、興奮を覚えた記憶から、私のなかでは、最も大好きな映画の一つになっている。
その、ロイ・アンダーソン監督が7年ほどの月日を隔ててリリースした「散歩する惑星」の続編?とも言うべき作品が、「愛おしき隣人」。


まずは大まかに

今回の作品は、なんとなくあるアパートに住む人々を描いているような感じもするけれども、必ずしもそうではないようにも思う。
ぱっと思いつくこの映画の特徴的な表現を少し。
まずは、全体的にいえるのは、音楽が随所に扱われていて、「散歩する惑星」でも、少しあったけれども、バックグラウンドサウンドかと思いきや、劇中の音楽と混じり合ったりするという、いままでの映画にはあまりない音楽の使い方。で、この音楽が非常に多くの場面で登場して、時にその歌詞によっての表現が強く印象づける。
さらにおかしいのは、いくつかの場面で、登場人物がカメラに向かって自分の意見や経験を語りはじめるという、もはや映画の枠を無視しきった展開。
あとは、これは「散歩する惑星」でもそうだったのだけれども、カメラが基本的には固定であること。しかも、この固定状態でのアングルがとても凝っていて、その固定位置から見える扉の向こう側まで動きを造っているところが面白いし、固定視点がいつも、一番前の情景だけではなくて、奥の情景がのぞき込めるようなそんな視点になっているのが、映像としてだけではなくて、形状としてもとても面白い。


さて、もう少し細かく

もう少し興奮気味にさらに内容に踏み込んでいく。といっても、やっぱりこの作品意味がわからないので、思ったことをただつらつらと書いていく事にする。
いくつかあるのが、印象的な言葉。バーのラストオーダーで、「明日がある」って言葉が何度も出てくるところ。全体的には、全て今ひとつうまくいかない日々を暮らす人々ばかりが描かれているのだけれども、それをこの言葉が象徴的に受けているようにもとれる。
それから、なんといっても、衝撃的なのが、精神科医の独白。これ、かなり表現としては直接的で、他の部分では、全くといっていいほど何も語らないかのようなのに、この瞬間だけが、一気に核心をついている。
そう、うまくいかない日々を嘆いて、そして、それを誰かの、もしくは、社会のせいにしてみて、というのは、きっと誰にでもある行動だと思う。時に、それは真実をついているのかもしれないけれども、時にそれは、ただの逃げ口上に過ぎないのかもしれない。そんなことを、精神科医は指摘しながら、しかし、この言葉が、ここで描かれている人々の全体を描いているようにでもある。ただ、それは嘆く人々をただなじろうというだけではないのが、いまひとつぱっとしない、自身も嘆いている精神科医が語っているところにあると思う。そのことによって、それは一面の真理ではあるという表現にとどめているようにも思う。だけれども、例え一面の真理としてだったとしても、案外この精神科医の言葉は重く印象に残る。
我々は、気の持ちようによってはしあわせなのかもしれないけれど、何かを求めすぎて、現状に不満ばかり述べているだけかもしれない。ただ、そうはいっても、ここに出てくる何ともいえないうまくいかない人々は、しかし、どうなのだろうか?
どうにもつらいのは、この悲しい状況に何かの救いが無いものなのだろうかと思うのだけれども、救いのような物は、何一つ描かれていないところ。ただ、ただ、悲しい現実ばかりがそこにあるようで、このちょっと息苦しさが、ちょっとした笑いさえも、ちょっと笑えない気分にさせると言う面がある。このなんともいえない閉塞感は、”きっとしあわせ”なのか?多重にひねられた風刺を感じる。
でも、やっぱりよくわからない。エンディングが何故あんな風なのかも、さっぱりわからない。
だから、すばらしいというしかない。


ということで

はっきり言って、普通の人が見に行っても、全く理解出来ないと思う。前作の、「散歩する惑星」は、友人と見に行ったけれども、私はスゴイといっていて、友人は、辛かったと言っていた。確かに、これを見るのは、相当に辛い。好きでも辛い。なにも起こらなすぎて、ちょっとむずむずしてくる。だから、普通の人々にはこの映画はあまりお勧めしません。そして、見る側がそれ相応に対応しないと面白さが理解出来ません。


ちなみに

はっきりいって、こんな映画をまともに撮ることの出来る監督って、ロイ・アンダーソン監督しか無いとは思うのだけれども、あえて、類似した監督を上げると、ウェス・アンダーソン監督とかアキ・カウリスマキ監督とかそのあたりの、なんとなく淡々とした状況を時にユーモラスに、そして、全体的に淡色で描く人々になる。


関連リンク:
『愛おしき隣人』『スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー』
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