安部公房:カンガルーノート

久しぶりに安部公房著 カンガルーノートを読む。
かつて読んだときは、結構軽快感さえ感じる
ユーモラスな読み物という印象があったのですが、
ひさひぶりに読んでみるとそのあまりにもの
グロテスクさと展開にあふれる
行き詰まり感に少しショックを受けるぐらいの気分でした。

突然貝割れ大根がすねから生えてきて、そして、
病院のベッドにのったまま、この世とあの世の境目の
ようなところをうろうろし続ける主人公。
それまでの作品に見られるような緻密な計算のなかに
ある破綻ではなくて、この作品では、
全てが完全に破綻を来しているように感じられた。
終末思想や絶望とはまた違うのだが、しかし、
どこか、どうやっても逆らうことが出来ない何かがある
という現実を強く感じさせるようでもあって、
そこには、かつての作品にあったそれを否定して
押しのけていくような何かが失われているようにも感じられる。
それは、「方舟さくら丸」にも若干感じられたところなので、
それが延長された結果ということなのかもしれない。
そして、この作品が安部氏が生前に発表した最後の長編でもある。


関連サイト:
安部公房について

カンガルー・ノート
カンガルー・ノート
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安部 公房
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5 夢の捕獲
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5 純粋な作品