現実と架空が交錯する活劇「ヴァインランド」を読む



トマス・ピンチョン

現代文学最大の作家の一人、トマス・ピンチョンによる代表的な作品の一つ「ヴァインランド」を読んだ。ちなみに、私は、この作品をすでに一度読んだことがあったのだが、「重力の虹」を残して刊行されたトマス・ピンチョン全小説にて、再刊行されたので、こちらの翻訳で再び読んで見ました。


ゾイド・ホイーラー

ぱっとしない男、ゾイド・ホイーラーを中心に物語が始まる。アメリカと思われる国にある地域、ヴァインランドを舞台とした物語は、しかし、そこからどんどんと発散し始める。
ゾイドを起点として、物語は進展する。分かれた妻であるフレネシのたどった運命をめぐり物語は深まっていく。フレネシの両親の話など、もの語りは時に過去に戻る。そのフレネシを負う連邦検察官ブロック・ヴォンドが登場し物語は複雑化する。そのフレネシは、政治的運動に傾倒していた過去があった。
また、ゾイドとフレネシの娘であるプレーリーを機転にまた別の方向へと物語は深まっていく。フレネシがやがてであった忍術使いの女性DL。ここからもまた物語は含みへと進む。そして、DLと共に行動するタケシ・フミモタ。そして、ゾイドを追いかける麻薬捜査官ヘクタ。様々な登場人物をめぐって、物語は進展し、それぞれに関連するようで関連しない物語が絡み合いながら進んでいく。


現実と架空

このヴァインランドをめぐる物語の特徴は、現実と架空の交錯。時に、実在の大統領の名前が言及されるかと思えば、法律的な背景が言及されるなど、現実的な背景がそこにあるような気にさせる。
しかし、一方で、テレビ中毒に冒されていたり、ウラ社会が描かれたり、忍術が使われたり、そして、死後の世界が現実をうろついていたり。


そして

そして、終焉にむかっても、また、現実と架空が絡み合いながら進む。映画撮影をはじめたヘクタ。その登場人物となり、ヴァインランドへ帰還するフレネシ、そこにたどり着いてきた、フレネシの母。プレーリーも戻ってきて、家族三世代が再び出会う。プレーリーと行動を共にしていたDLとフミモタの存在故なのか、その三世代どころか、さらなる先祖が大集合を果たす。
そこに奪還にあら現れたヴォンドは、しかし、現実なのか、プレーリーの夢なのか。そして、そのヴォンドは、指令により奪還活動を中止させられる。


プレーリー

そして、そのプレーリーの夢想の中で、物語は終わる。様々な発散した物語は、発散したままのようで、しかし、一つに収束してきているようにも感じられる。トマス・ピンチョンの作品は時に、サイドストーリーはそのまま回収されることなく、放置される場合も見られるが、この「ヴァインランド」では、収束されてきているようである。最後は、「家」という言葉が登場して物語が終わると言うことになる。


軽快に

この「ヴァインランド」は、通じて、軽快に描かれている。重さはそこにはかけらも感じさせない。しかし、一方で、そこで描かれる人々は、追うものも追われるものも、現実に支配されていて、そして、そのことが発端となり、混乱の追跡劇が悲劇的に進んでいく。それぞれの立場において、それぞれの打算も含んだ思いが、それぞれの行動を誘発している。
誰が、自分の思いに素直に動き、誰が、誰かの思いに引きずられてしまっているのか。そのそれぞれの行動の動機の部分に着目してて見ると、この物語の立体に焦点が合い始める気がする。


関連サーチ:
ヴァインランド(AMAZON.co.jp)
ヴァインランド(Google)
Powered BY AmazoRogi

ヴァインランド (トマス・ピンチョン全小説)
発売元 : 新潮社
発売日 : 2011-10 (単行本)
売上ランク : 116875 位 (AMAZON.co.jp)
¥ 3,990 在庫あり。
Powered BY AmazoRogi Data as of 2013-03-01
See detail & latest visit AMAZON.co.jp