この一冊で第一次世界大戦までの全世界史を俯瞰できる「若い読者のための世界史」



ゴンブリッチ

本日取り上げる本は、「若い読者のための世界史」と題された書籍で、エルンスト・H・ゴンブリッチという芸術家の書いた書籍。
この書籍が、実際に書かれたのは、1940年ごろ、作者が25歳の時に書かれた物で、読者としてはこどもを想定している。ということもあって、二人称で書かれていたり、漢字にルビがふってあったり、それどころか、感じではなくひらがなが使われていたりする。
という、背景を持つ書籍なのだけれども、これが侮る無かれで、ネアンデルタール人あたりに対する言及から始まって、古代文明から、紀元前、紀元後、中世から、産業革命をへて、第一次世界大戦までの世界史を見事に俯瞰的に取り扱っていてなかなかのもの。


とはいっても

と、それほどの世界史を網羅するような内容でありながら、ハードカバー350ページほどでかつ先述のような子供向けな文章でもあるために、かなり容易に読み通すことが出来る。
勿論、それは、諸刃の剣で、かなり言葉足らずに思えるところとか、世界史といいつつも東アジアや南アジアに対する言及は薄く、オセアニア北アフリカ以外のアフリカへの言及はほぼ無い。


俯瞰する

私自身が、実のところ、歴史が大の苦手であり、20世紀以降のことも結構怪しいのだけれども、19世紀以前のこととなると、日本史にせよ、世界史にせよ全く訳が分からないレベルの知識。ということもあって、むしろ、こうやって、それぞれの時代を深く取り上げるのではなくて、全体の薄くではあるものの俯瞰して説明してくれるというのはとても興味深いものだった。


紛争の歴史

実際、この書籍によって、一気に時代の流れを通して眺めると、特に、ヨーロッパ、から中近東、北アフリカにおいては、文明が進歩していきながら、一方で民族の流動と宗教の流動にともなう紛争が常にそこにあって、そして、その多くは今に至る民族紛争や宗教紛争の歴史的な変遷を理解する事が出来る。勿論、この書籍では随分と端折って書かれているために、実際に紛争の歴史だったのか紛争の合間には平穏な時代が合ったのかどうかまではよくわからないのだが。


啓蒙思想

そして、人類は今までのほとんどの時間を強い身分制度と宗教的なものも含む思想統制の中に生きてきたのだということを改めて認識させられる。その身分制度は、さらに奴隷制度も包含しており、そして、インドの身分制度はその時代が未だに残存しているということなのだと。
その中で、なんと無く歴史で習ったので覚えている啓蒙思想というものがどういう存在であったのかということが、実は、昔習った当時にはイメージ的にしか認識できていなかったということを認識させられつつ、この書籍によってその意味を改めて理解した次第。そして、さらにそれが人類の長い歴史においては、つい最近の出来事であるというのも恥ずかしながら私にとっては新たな発見であった。現代もまだ矛盾に満ちていると思われるのだけれども、我々人類は、少しずつではあるが、その矛盾を取り除こうと進んできたのだと思うと、この世の中に矛盾を感じるのであれば、それを良くするのは我々の役割だと感じてみる。


悲劇

この書籍ではある意味では、あえておぞましい部分を書いているというところもあるのだろうけれども、様々な人類のおぞましさを至るところで感じさせられる。それは、激しい紛争や宗教対立、魔女狩りなどもあれば、さらに、アメリカ大陸における先住民族への侵略だとか。それから、ロシアについては、多くは語られていないのだけれども、スターリン以前から連綿と抑圧の歴史があったのではと思わせるところがあり、またおぞましい。
そして、これは私の昔からの疑問であるのだけれども、強い支配者は本当に英雄なのかと。


どこまでが

一方で、このような歴史の眺め方が全てではないと思うし、必ずしもここに書かれていることが適切ではないということはある程度理解しておかないといけないということはあるだろう。古代史については、書かれた当時以降に新たな発見などによって、修正された内容もあるだろうし、そもそも、歴史というのは各国の教育のなかでそれぞれがそれぞれの見解で教育しているように、さまざまな解釈があって、ここに記されている解釈が一般的なのか、偏ったものなのかも分からないし、そもそも正解が無い故になんとも困難であるということはどこかで思っておかないといけないことだとは思う。
ただ、そういった側面があることは十分に理解しつつも、ここにまとめ上げられている俯瞰的世界史には、例えば、今まで分散的に理解していた歴史をまとめ上がったものとして再構築する助けにもなるし、そもそも、学校の授業では理解が難しい、世界史的事象をどう時代的に理解するということが、この書物で出来るというのはとてもありがたいし、個人のアイデンティティの一要素である歴史認識に新たな側面を継ぎ足すには十分な無いようだと思う。


振り返り

そして、この書籍には、作者による50年後の振り返りが用意されている。その50年にあったのは、言わずもがな第二次世界大戦である。オリジナルのこの書籍の最後は、平和を祈るようなそれであった。にもかかわらず再び世界大戦が起こった。一方で、やはりこの50年後の振り返りにおいても、作者は再び平和を祈るように終えている。


第二次世界大戦

これ以降は、この書籍とは関係なく思っている私自身の20世紀に対する一つの理解を述べながら、この書籍の感想とともにこのエントリーをしめようと思う。
第二次世界大戦とそれに次ぐ冷戦や地域紛争について考えると、結果的には、これらの事を経て近代国家が成立した考えるべきではないかと思っている。そして、良くも悪くもそれぞれの民族もしくは近しい民族達が集まって、それぞれに国家を持つに至ったと。未だに紛争が収まらない地域というのは、その民族的自立が成立しなかったところや、列強の狭間に残ったしこりによって発生している場合が多いのではと思う。そして、現在というのは、その近代国家間で世界が運営されていると考えることができると私は認識している。どのようにアナーキーな発言をしてみたところで、我々はその国家に強烈に所属している。そして、多くの近代国家は、国民の平等と権利が行き渡っていて、なにはともあれ自由に生きる事が可能となっていて、それは、啓蒙思想の比ではない。そんな世界がこれからどこに行くのだろうかと。
改めて、紛争について考え直してみると、現代においては、戦争の規模が制御を超えるレベルになったという事実がある、核兵器によって。このことがもたらすことは、なんなのだろうか。それでもなお、過去と同様に我々は紛争を繰り返すのか。一方で、市民が力を持つことによって、それとは対照的にかつては絶大な権力を持っていた国家元首たちは権力が弱められたが故に、国家総動員的に紛争へと歩を進めることは不可能になっているという考え方も出来よう。となると、今依然としてある矛盾を一つ一つ解決しようとしていくことが、結果として、紛争の繰り返しに終止符を打つ原動力になるのではないだろうかと、淡い期待を持ちたくなるのが、私の今の思いであり、そこに我々の目指すべき姿があるのではと思って見たりもする。
それとも、現在は、より未来から歴史として振り返ったときには、特に何も語られることのない、いつの時代にもあったであろう、端境期的な平穏に過ぎないのだろうか。


とまぁ

とまぁ、つらつらと大きな視点でいろいろと考えるのには、うってつけの書籍だと思うので、「若い読者のための世界史」はお薦めです。
ちなみに私は、この後に同じ作者に書かれて、これまた名作と呼ばれている「美術の歩み」も読んでみたくなっています。




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若い読者のための世界史
発売日 : 2004-12-01 (単行本)
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¥ 3,990 通常3〜5週間以内に発送
評価平均 : /7人
世界史が嫌いな私でも楽しかったです.
世界史に場を借りたマネジメント論
おとぎ話ふうの世界史。
こんなふうに世界の歴史を語りたい
大まかに世界史を把握できる
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