ICC:特別シンポジウム「メディア×アートの創造と未来」2日目



1.2日目
さて、2日目。1日目が総論で、2日目が各論という位置づけらしい。
阿部一直:山口情報芸術センター、アレッサンドロ・ルドヴィーコ:Neural編集長、ケイシー・リース:Processing創始者、高谷史郎:ダムタイプの創設メンバーが今回のパネリストで司会が四方幸子。
それぞれが、それぞれに面白い活動をしている人々。
それぞれに関連しそうなサイトは、記事一番下につけているリンクからどうぞ。


2.プレゼン
2.1高谷史郎氏
ダムタイプの活動を中心に初期の活動状況から最近の活動まで。という話しから活動のビデオ紹介に行く予定が、トラブルで一時中断。その後再開。
もともとは、基盤アナログデバイスによって作品を作成していたのが、徐々に技術の進歩によりより作品の可能性が高まったという話し。最近のものでは、坂本龍一氏による音楽と自身による映像をランダムに再生する作品。そこに、霧を介在させる事で、コンピュータ的ランダムさに自然のランダムさを混合させている。
このランダムというところが最近とても気になっていて、コンピュータの性能の上昇とデータベースの充実によって、情報が手に負えないほどのレベルになってくる。こうなると、ランダムに限らずコンピュータの手を利用しなければどうにもならない。さらに情報が多くなれば時間軸がどうしても足りないために、ランダムによって(完全なランダムとある程度制御されたランダムがあるが)再現するしかないし、したくなる。数学的にも、ある程度ランダムさを加える事で多変量最適化が可能になるので、ランダム自体には問題はなかろうと考えるのだけれど、本当にランダムでいいのか、もしくは、そのランダムが何を意味するのかの説明責任は無いのだろうかと考えている。ランダムなのか、選別なのか。これは、このシンポジウムでもしばしば話題に出る、Googleのランキング、AMAZONの商品紹介の問題とも関連するかもしれない。これらのものにもランダム性を入れればと思うのだが、一体何がランダムなのかという問題も発生する。
2.2ケイシー・リース氏
プログラミングベースのグラフィック、画像・動画処理系オープンソースソフトProcessingの創始者。グラフィック系のソフトといいながら、マウスを使って書いていくものというよりも、画像・動画処理をプログラミングで行うためのもので開発環境。で、オープンソースであるが故に、コミュニティーで様々な画像処理モジュールが公開されているために、簡易にコラボレーションしながら、わずかなプログラミングでかなりの事が出来るというのは、他のオープンソース系開発環境と同じような状況。このソフトは、かなり面白くて、私も少し前に使おうとトライしたのだが、使う対象が無くて途中で断念。ただし、スクリプト系言語に近いので習得はそれほど難しくなさそう。ちなみに、最近日本語の解説書がでたらしい。
2.3アレッサンドロ・ルドヴィーコ
Hack系なとがった雑誌だという"Neural"の編集長。サイトはこちら。それから出版物のほうは、英語版があって、日本でも買おうと思えば買えるらしい。最近のWeb系の流れに対していえば、Google Will Eat Itselfという、Google の独裁にたいする対抗的サイトでの活動からGoogle 独裁の危険性の話し。それから、AMAZON のちょっと読む機能などについての言及とコピーライトの問題。つまり、データベース化された情報の価値と所有の信頼性への言及。このへんについての議論は、上記2.1の最後の方の文章へと繋がる。
2.4阿部一直
山口にあるメディアアートの先進的施設山口情報芸術センター(YCAM)のディレクタ。YCAMでのプロジェクトの紹介から音と映像と3次元(時間も含めれば4次元)再生技術を基にした話し。さらに、視点の変化別の視点という観点からの作品など。
で、このあたりの作品を考えると、結局今まで表現出来なかったものを表現したいという欲望が隠れているように思う。となると、それは、具象絵画から抽象絵画になったり、シュールリアリズムになったりして、そこに表出しているものではない現実を描こうとする人間の試みの延長線上に確実にあるといえると思う。で、技術の進展と作家側の思想の進展によってどんどんと固定されていたものが解放されて、そうであるが故に表現しなければならない変数が大量になってくるものの、それを技術と発想によって表現しようとする行為がメディアアートなのだろうというところに繋がりそう。


3.ディスカッション
ディスカッションも昨日とはちがいとても面白い内容。デジタルによる知覚への影響の良い面悪い面。データベースがコントロールする何かの影響の良い面と悪い面。それらを否定するのか、肯定するのか。このあたりの考察が必要になるのかもしれない。ただ、こう考えたときに面白いのが、何故人は自分たちが作り出したもので、それがどう影響するのかについて考察するのだろうかというところ。そもそも、知覚を表現しようとしたはずのものではなかったのか、もしくは、知覚の限界を超えるための技術ではなかっただろうか。既に、技術によって人間は生身の体だけで出来る事以上の行為によって生活していて、それを取り去る事は不可能な状態であるというのに。しかし、ここには人間の意識のもつ自己参照性(後ほど少し言及する)があって、それは生物では食物連鎖という形で現れる自己参照性を自分の中に持った人間の特性を端的に表しているのかもしれないとも思う。このような意識を人間が何故持ち得たのかというのは、それは意識の中にも、生き残るという目的がすり込まれているからなのだろうか。もしくは、ただあまりにも多様な人間が生きているが故に、いろいろな意見があるだけで、意見の対立が結果としての安定を、不安定(アンステイブル)な安定をを生み出しているのだという考え方もあるだろうが。


4.私見
4.1無理矢理ベケット
先日少しここで書いたベケットのワットでは、順列組み合わせによって全てを表現しつくそうとしていた。この姿勢は、どこかアートが目指し、そして、その最たるものとしてメディアアートが目指している様々な可能性を表現に置き換えようとする姿勢に近しいものがあるように思う。それは、ランダム表現もそうだし、視線の変更、3次元性、複雑系、データベースの信頼性というところに関連しそう。
4.2ミニマルな極北へ
ただ、ベケットはその後、テキストを最小にしていく方向へ向かっていた。それは、ある種、書き尽くす事の可能性の限界から、書かない事で可能性を解放する行為へと移行したということかもしれない。となると、技術を利用した多面性表現は、その進化自体には十分に意味はあるものの、一方で、またミニマルなものへの欲望が生まれてきてしまうのかもしれない。
4.3技術の陳腐化
それは、別の観点でいえば、技術の発展に対して、表現者がそのツールの習得に時間がかかるが、一方で、技術はどこかで壁にぶつかる。技術が壁にぶつかっている間に、ツールの習得が進みツールに対する慣れが進むと、それを今度はやり尽くすという状態になってきて、ミニマルの方向性へ動くという動き方もあるといえそう。
4.4文学の遅れ
ベケットを引き合いに出して思うのは、ベケット以降はなかなかそういったテキスト表現による表現の限界の追求という動きがほとんど見られないところが、文学の遅れを感じさせるところ。映像・音楽というものはデジタルとの接続によって、どんどんと変化していく。テキストもどこかでデジタルとのつながりをもって、何か別の展開があるのかもしれない。現時点でもテキストを利用したメディアアートはあるのだけれど、文学との関連性というか文学がテキストで表現しようとすることとの関連性はまだ深くない。このあたりに何かが見いだせると面白い事が出来るかもしれない。
4.5自己参照性
それから、自己参照性。これは、少し前のペンローズの記事で少し触れたけれども、メディアアートでも自己参照して、それをトリガーに次の変化を起こすような作品がある。この自己参照性って何かというと、結局アンステイブル(不安定)であることなのだと思う。このシンポジウムでもアンステイブルというのはよく話題になっていると思うけれど、このアンステイブル性によって、自己参照が可能になるということかもしれない。つまり、自己参照しているようで、参照元と参照先はアンステイブルであるために、それらは実は同じではなくてとうことで。そのアンステイブルへの対応として、過去の自己を含めた周辺環境を参照する事で、その次の展開を明確にしようとする事のように思う。


5.膨大
つらつらと書いていたらとても長くなってしまったが、徐々に膨大になる情報を前にどのように振る舞うのか。別に何も無くても良いといえばそう。何が心地よいのか、それだけを求めればそれで良いのかもしれない。ただし、そのそれでよいという方向性がわからないといのが現実かもしれない。


関連リンク:
dumb type website
Processing.jp
Processing 1.0 (BETA)
Neural.it :: new media art, electronic music, hacktivism
山口情報芸術センター
関連サーチ:
ICC(AMAZON.co.jp)
ICC(Google)
ICC(Technorati.jp)
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