平野啓一郎:あなたが、いなかった、あなた



1.たまには
たまには、本屋に平積みされている最近の日本人作家の本を読んでみるかと、ネット系ではすこし話題にもあがる平野啓一郎の短編集を買ってみた。


2.どうなのだろうか
2.1全体
まずは、全体の感想から。これは作家と私自身感覚の違いによるのかもしれないが、正直言って、この作家が一体何を表現したいのかわからなかった。実験的な表現を試みたらしいのだが、本来表現手法と作家自身の表現したい内容は密接にリンクしていて、表現手法と感情が相乗効果を起こして、一見特異に見える構造が、まさにその構造でなければ表現できない、ということが読むと手に取るようにわかって文学の面白さを感じるというところに至るのだけれど、手法と感情が分離しているというか、感情のところが全く感じられなかった。というか、本来はどうにもならない感情をどうにか表現しようとして表現手法をいじる、という展開だと思うのだけれども。それに手法的にも安易。何を表現したいのかが終始疑問のままでよくわからなかった。
2.2各論
最初に収録されている作品が最も良い出来。人間は、特に、都市化した人間は自然のものの変化に時に強い生命力を感じてそこに、不気味なことを感じさえすることがあると思う。それは、自分自身の肉体に対してもそうで、肉体の変化というのは思春期ではなくとも、時に不気味なもの。その感覚の一部分がうまく出ていると思う。ただし、登場人物に夜中まで働かせたり、性交させてみたりは、安易な登場人物の色つけ。これが、どこか全体を狂わせている。ただ、こういった人物色つけをするところが、この作家自身の特徴であるような気もする。
それ以降の作品については、特に指摘することもない。わざわざ登場人物と作家自身とを三重構造にしているのに、それによって、それぞれの立場で対立して葛藤するのかと思いきや、むしろ自身の作品の言い訳に用いているかのよう、それどころか、衒学的、これもこの作家らしいところかもしれない。五重構造にしても、どうするのだろうかと思ったら、それで終わるのかと。つまり、何を表現したいのかわからない。
それから、やはり全体的には文章が多すぎるというか、不要な表現が多い気がしてならない。近頃よく売られている作品に比べれば、ずいぶんとましとは思うが。これは、作家の責任以外にも、市場と出版社の問題もあるかもしれないが。


3.表現
それぞれサイトの方である程度の読解してみてますが、ロブ=グリエにしても、ヘンリー・ミラーにしても、ベケットにしても、安部公房にしても、カフカにしても、特異な表現をする作家ってのは、過剰なほどの葛藤があって、それをそれとして表現するために、特異な表現が選択されている感じがするのだが。それと、私自身が考える表現の方向性はこちらで試みているようなところ。


4.文学界
最終的には、最初にも書いたけれど、この作家と私自身の感覚が違うということにつきるのだと思うけれど、もっと面白いのではと期待しただけに残念。川上弘美も最初の作品はそれなりに気に入ってその後に期待したのだけれど、その後の作品は私の感覚では面白くなくなってしまっている。

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あなたが、いなかった、あなた
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発売日 : 2007-01-30 (単行本)
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