莫言:至福のとき

1.著者と作品
莫言は、豊乳肥臀 (上)などでも知られる中国で、もっともノーベル賞に近い作家といわれている作家(最近は、アジアで最も近いともいわれている)。作風は、ガルシア・マルケス的なマジックリアリズムを感じさせるもので、中国土着の部落慣習を濃厚に漂わせながら、それをときに誇張して表現することで、作品の面白さと社会の特徴を見事に表現するというタイプ。
比較的長い作品がおおいが、この作品は中短編を集めた作品集。


2.注目の作品
作品は、全体的に実験色に満ちたものになっている(そもそも、この作家の作品は、一般的な視点からするとどれも、実験的になるのだろうが、その中でも、さらに実験的なものというか、少し未完成なもの)。やはり、注目はこの作品の中でもっとも長い「飛蝗」である。蝗の大発生を話のベースにある部落のある一族の男女関係を中心とした人間関係を描きながら、その裏で現代都市にて起こっている男女関係を描くという、感情と情景を一度分離させておいて、それぞれをそれぞれに描き上げながら、物語の終盤に向けてそれらを再度つなぎ合わせていくという、現代リアリズム文学の方法論を完全に消化しきったうえで、莫言特有の、中国農村マジックリアリズムを見事に嵌め込んだ作品となっている。そのことによって、一見日本にいる人間にとっては、感覚整合が困難とも思える中国農村の情景でありながら、誰が読んでも、感覚にぶれが生じない作品となっている。この作力には恐れ入るし、説得力がある。


3.その他
その他の短編もなかなかひねりが効いていて面白い、私自身のお気に入りは、「長安街のロバに乗った美女」である。ちょっと、これは説明が困難であるが、どこか、何もないところへただ向かっていっているかのようなところを描くというところはとても興味深い。一方で、「宝の地図」は、もう一つ好きになれなかった。このあたりは、好みによると思う。ただ、それだけ多様性のある作品集になっているともいえる。


4.お勧め
莫言の作品は上下巻にまたがるものも多いので、未だ読んだことあらずというかたにとっては、この短編集からとっかかるというのもお勧め。特にガルシア・マルケスファンで、この作家を呼んだことがないかたには、是非ともお勧めしたい。南米の土着性とはまたひと味もふた味も違う土着性が臭ってきます。


5.追加
ブログ書いてから、いろいろと調べてみると、なんとも恐るべき絶妙なタイミング(その2)で、最近莫言さん来日中らしいですね。関西方面での講演会があっただとかなんだだとか情報はみつけたのですが、それ以外は情報ソースが見つからず、詳細が不明の来日。ただ、これだけの人物が来日しているのに、この情報源のすくなさというか、ニュース記事にもなっていないって、どういうことなのだろう?某氏がカフカ賞ノーベル賞に近づいたとすぐに大騒ぎし始めたりするわりには・・・。いやはや、しかし、こういう状況なのに、そういう態度しかとれない人々に限って、最近の読書離れは深刻でどうにかしなければといっているのだから、悲しい。そして、自然とブログというメディアの方に惹きつけられる・・・。


関連リンク:
莫言/豊乳肥臀について
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至福のとき―莫言中短編集
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発売日 : 2002-09 (単行本)
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