Art2.0 というごまかしのタイトルで(その3)

0.とりあえず
少し、間が開き気味であるが、その3を書き進めてみる。
その1、その2ではどちらかというと現状のアートの状況をまとめてみたつもりである。それをふまえてここからは、これからのアートがより面白く存在するための方法について考えてみたい。
あと、今回はついでというと何ですが、良いタイミングなので、国際交流基金ブログ記事トラックバックしてみます。少しぐらいは、「アート戦略都市」というテーマにかすっている内容だと思うので・・・。


1.遠くにあるアート
その人の属する環境によるのだろうが、おおよそアートはそれほど浸透していないと思う。私の周りでは頻繁に美術館に行くという人は数えるほどしかいない。正直言って、これは(その1)でした分かる分からないという議論の前にとにかく美術ファンとしては悲しいし、ユーザーが少なければ軽視されるというのは、民主主義国家の多数決の原理の前では、そのまま呑み込まざるを得ないという要素は十分にあるともいえる。この状況に至る一つの大きな要因は、美術館の敷居の高さというか、高さというのは表現が適切ではなくて、敷居の異質感とでもいうほうが適切だろうか、とにかく、美術館に対するなじみのなさだと思う、遠くにあるアート。


2.特別なのだろうか?
私自身も、時々、「昨日、美術館に行ってきた」というような話を友人の前ですると、畏怖の目で見られるという不思議な経験を何度もしている。私自身の気分では、「映画に行ってきた」、「スポーツを見に行ってきた」、「演劇を見に行ってきた」、と言うあたりのことと全く同列な感覚であるにもかかわらず、世間的はどうもそこに何かちがいがあるようだ。たぶん、「コンサートに行ってきた」と言ったときに、「クラシックのコンサートに行ってきた」言った時でもまた同じようなことになるのだと思う。このことが多くのことを語っていると思う。つまり、美術って、身近には無いものになってしまっているのだ、多くの人々にとって。さてさて、これではまずいということで、その美術をもう少し身近なものに変えていくという試みがどうしても必要になってくるし、昨今の美術館の危機にはそれなりの妥当な理由はあって、それを改善していく努力をしなければならないというのは事実だと思う。さりとて、安易な方法に頼れば、それは、美術そのものが目指す試みが変化してしまって本末転倒になってしまうというところも忘れてはならない。


3.関係ないですが
全くの余談だが、その昔、"Marquee"という、プログレッシブ・ロック専門誌があった。しかし、それがある日突然、プログレッシブ・ロック専門誌から、ポップ・テクノ系雑誌に変わったのだ。きっと、プログレッシブ・ロック専門誌では部数が稼げなくて、の転換なのだろうが、きっと、部数は伸びたのだろう、今も売られているから、しかし、多くのファンは絶望と憤りに包まれた。その後、変わりに"Euro Rock Press"が創刊されて今に至る、同じ出版社からなのだが、というところが複雑。まぁ、捨てることによって復活したいい例だという判断もあるだろうが、それまでその雑誌を支えてきたファンを見殺しにするというのは、どうなのだろうか。そのほかには、"FOOL'S MATE"という事例もある。マイノリティはいつも悲しい思いにむせび泣くと言うことかもしれない。だからこそ、危険を感じたならば、放置せずに、対応策を早く投入すべきなのだという切迫感を持ち続けるというところにも繋がり、美術館にその危機感を感じているというところもある。とんでもない余談だが、美術館にはこういうことはしてもらいたくないし、美術館のみならず、こういうことは辞めて欲しい、今でも、本屋で"Marquee"を見るたびに、悲しい気分になる。(ただ、こういった現象もwebが解決してくれつつあるという側面もあり、webの力強さというか、修正民主主義を感じるところである。)


4.じゃぁ、どうしようか
さて、余談はさておき、その真の理念を失わずして、一方で人々にとってより身近になって行くにはどうしたらいいのだろうか?という議論に持ち込むわけである。
4.1トラフィックを稼げ
ネットの世界でトラフィックを稼ぐためによくやられている手法から考えてみると、それは、まずは、無料化、体験版化による入り口を下げる行為。そして、統合化、ポータル化によって、スケールメリットを出すというか、とりあえずここにこれば何かがとユーザーに期待をしもらい、実際にあるサービスを提供するというところ。これをそのまままず持ち込むというのはどうだろうか。
4.1.1無料化・体験版化そしてカフェ
たいていの美術館は多くの所蔵作品を持っていながら、実際に常設展などで展示しているのはその一部に過ぎないという現実がある、それなら、いっそのこと、それらはオープンな空間に展示してしまえばいいのではないだろうか、勿論、その分の運営費が出てしまうことになるだろうが、一種の広告宣伝費としての投資と捉えることにする。そして、それと同時にカフェなどもひらく、場合によっては、カフェみたいなところで美術を鑑賞できてもいいかもしれない。この無料提供により、トラフィック=訪れるユーザーを増やして、有料入場者が増えることも期待するというところへ持ち込む(カフェの場合はカフェ収入も見込める)。
4.1.2質が悪い
いや、これだけではきっと不十分だ、なぜなら、現時点でも、多くの美術館はカフェを併設しているにもかかわらず・・・なのだ。ただ、これは、カフェの質が悪いと言いたい。カフェを併設して、集客を集めると言うよりも、中途半端なカフェがさらに収益を悪化させているとしか思えない様子をよく見かける。どうせ作るなら、近頃よくあるチェーンのそれを持ってくればいいと思うのだ。よく美術館にあるカフェで感じるのは、かなり中途半端で、アート的でもなく、一般的でもなくというもので、行く気がしないのが現実。普通のカフェ+アートにするべきである。極論すれば、カフェ専攻型であってさえいいと思う、有名作家にのみ頼る展示ばかりするよりは。
4.1.3統合化・ポータル化
と、ここまで来てもまだまだだ。これは、あくまで美術館のある場所に何らかの理由で通りがかった人を取り込もうと言うところで、確かにそこまでは出来るかもしれない。しかし、たいていの美術館は人があまり通りがからないところにある。さて、どうやって通りがかってもらおうか。統合化・ポータル化を試みていこう。これには、二つの方向性があると思う。一つは、美術館同士の連携という意味、もう一つは、公共サービスの連携という方向性。
4.1.4同業の連携
前者に関して言えば、例えば、オペラシティの例で言うと、オペラシティのチケットでICCの入場料が割引になる(もしくは、その逆)というサービスがあるが、これもある統合であるし、千葉の千葉市美術館川村記念美術館の場合は、無料シャトルバスの運行がある。これは、とっても便利だし、合わせて両方とも見ようという気にさせる。ただ、難点があるとすれば、まずいずれかの美術館に来てもらわなければならない。既にユーザーとなっている人にとって便利なサービスとなるが、新たなユーザーの発掘には繋がらない。なので、この対策は、ユーザー定着としての価値の方があるのだろう。
4.1.5公共サービスポータル
後者の例で言うと、美術館だけではなくて、公共サービス的なもの、図書館だとか、公園といったものをまとめて設置する。比較的、公園との併設という例はよく見られて、東京都現代美術館木場公園の例とか、世田谷美術館と砧公園の例もそうかもしれない。ただ、なんとなく感じるのは、文化系の香りと体育会系の香りの差と言うことも合ってか、その両方を楽しんでいる人はあまりいないようにも思える現状。ただ、これはしょうがないだろう。いずれにせよ、そこに在れば、例えば、美術館など全く興味なく公園に来た人が、そこに美術館を発見して・・・ということもあるだろうし、その逆もある。広告という意味では、まず目にはいるということに重要性がある場合も多々あるだろうから、現時点でも効果的な事例といえると思う。
4.1.6図書館はどうだろう
それから、あともう一押ししたいのが、図書館との併設。東京都現代美術館の場合は、この図書館も併設されている。ただし、私の個人的な意見では、狭すぎる。まぁ、美術専門図書館という扱いだからだろうが、ここで指摘したいのは、美術関連に偏り過ぎていてはだめなのではないかということ。美術館だから当たり前だという意見もあるかもしれないが、私の考えでは、そうである必要はないというか、もっと幅広く扱うことによって幅広い人が利用して、その人たちが美術館にも興味を持つということも重要かと思う。また、これも個人的な思いこみかもしれないが、美術に興味を持つと、美術関係のことだけでは収まりがきかなくなって、より幅広く物事を知る必要性や知りたいという欲求が湧いてくる、ジャンルを区切るとそこに対応できない。もともと、ジャンル分けには整理以外の意味は無いと思う、その観点からしても、ジャンルを超えて興味が流出していくことは大いにあるだろうから、美術が特に充実している図書館はすばらしいが、美術だけになると美術館ユーザーの中のコアユーザーの利用に留まるだろう(本来は、ここで東京都現代美術館の図書館がどの程度どのようなユーザーに利用されているのかという実態調査の結果を提示するべきだろう。私の発言は全く一方的な個人的思いこみに過ぎないかもしれないというか、その可能性が高い。ただし、私がこの文脈で提示したいのは、美術館の中の図書館ではなくて、美術館と図書館の併設であるから、全体の文脈には関連しない。)。
4.1.7図書館は使えるスペース
何故図書館かというと、私自身はこの図書館という存在に特に昨今激しい便利さを感じ始めている。まず、公共のものであるために無料で利用できる。本がたくさんある。そして、世の中に数ある空間産業(カフェ、ファミレス、漫画喫茶など)が提供する場所との最大の差は、静けさである(最近は有料の図書館スペースというのもあるらしいが)。この静けさとういう集中可能な空間を見つけることは意外に困難である。また(一部寝ている人もよく見かけるが)、周りに勉強しているひとが多くいるので、自分もがんばろうという気になってくる。なんとなく、自分のことだけを考えてみると図書館と美術館が併設されていると、図書館で何かを勉強しながら、ちょっと息抜きに公園を散歩して、そして、美術館で絵を見て脳をすこし違うベクトルへ移動させて、また勉強するというなんともすばらしい環境だろうと、そんな気がしてきてならない。受験生だけが使うのは勿体ない。
4.1.8世の中を眺めてみると
実際、図書館の価値は今多くの人が認識している以上にあると思っている。例えば、最近の大型書店には椅子が置いてあるし、カフェなどは結構常に大混雑でそこで本を読んだり、書き物をしたりしている人は多い、ファミレスなどもしかり。というと、図書館って実は多くの人が気がついていないだけで潜在的なユーザーは多いと思うのだ。そう、漫画喫茶なんかもこの類だろう。
4.1.9統合してみると
と言うことで、これらを統合してみたあとに、これをもう少し素敵な表現に変えれば、公共憩いの場を作るというのはどうだろうかと言うところなのだ。別に同じ建物の中でなくても良くて、近くにある、同じ敷地にあるというレベルでいいと思う。図書館は無料スペースとして提供、なので、公園とあと美術館無料スペースを利用すれば、ただで楽しめるというWeb的世界が広がるわけだ。だけれども、もっと美術を見たいと思えば、美術館の有料スペースへ足を運ぶ。カフェで食事したり、お茶したりする。あとは、アート関連ショップを併設するぐらいか。ある程度無料で公開することで公共事業であることの意味にしっかりと回答できそうだし、有料化のところを利用して、収益的自立の支えにするなんてことはできないだろうか。場合によっては、無料スペースには、どこかにさりげなくスポンサー企業名を入れるなんてものもありだとおもう。ただ、センスが悪いと最悪になるだろうが。
4.1.10でトラフィック
となると、トラフィックを稼ぐという本来の目的にかなってきているだろうか?場所としての魅力が上がれば、必然的に人が足を運ぶだろう。足を運んだだけの何かを得ることが出来れば、さらに来る人が増えるだろう。良い循環にはならないだろうか?
4.2コンバージョンも稼げ
人々が来るようになっても、有料入場者数が増えなければ、やはり経営は苦しいだろう。もし、公共事業という観点で見れば、利用されているということが存在価値のある存在ということに繋がるかもしれないし、企業メセナであったとしても、利用者が増えれば、企業名アピールの場が増えるといえるかもしれない。ただ、やはり維持管理費を含めた自立を考えるとコンバージョンを稼がなければならない。
4.2.1これがなかなか難しい
これには、残念ながら、良い案は思い浮かばないというのが正直なところ。ただし、一つ思うことは、本当に間口が狭くなっていないだろうか?というところ。例えば、このテーマを書き出したそもそものきっかけであるICCを例にとってみると、ICCのみがある施設へ行くのに、そこだけに行くエスカレータに乗らなければならない。これは、同じビル内にある東京オペラシティギャラリーについてもそうなのだが、これは、やはり避けるべきことなのだと思う。だいたい、よく分からないところというのは入りにくいもので、入りにくい場所には、小さな障害が大きな妨げになる。ビルの構造を変えるのは難しいだろうが、何らかのビル内誘導策を考えるべきとも思う。WebSiteでもどこからどこに行くべきかをわかりやすくするべきなのは当然だし、そもそも、世の中の普通の店舗なりはそうすべきなのはとうぜんであろう。意外と小さな努力も忘れてはいけないということなのではないだろうか(かといって、現状そういう努力がなされていないとかという批判をしたいわけではなく、結論がそこにしかたどり着かなかっただけです。)。
4.2.2そういえばICC
思えば、ICCも当初は、ライブラリをもち、カフェも持ちという、先述の提案内容に近いことをやっていた。きっと普通に思い浮かぶのがこういうところなのかもしれない(ただし、ICCのカフェも、いまいちだったと思う。私自身一度も利用したことがないまま閉店してしまった。)。いや、やはり難しい。きっとwebから逆展開させようという今回の試み自体が、コンバージョンを上げるということを考えることに限界があるのだろう。webは儲からない。その手法を取り入れようとするから儲からない。であれば、きっと儲からないなりの存在の仕方を考えるべきなのだろう。
4.3結局無料スペース
ただ、やはり、このあたりを打破するのは無料スペースだと思う。もしくは、無料までしなくても、100円ぐらいにして、しかも、チケットはわざわざブースで買うのではなくて、入り口でコインを渡せば良いような気軽なものにすればいいと思う。もしくは、企画展の合間は無料展示期間に変えてみるとか。いつの間にか、話が元に戻ってしまっているので、今回の思考はここが限界と言うことだ。ただ、いずれにせよやはり、ここに戻ってくるのだと思う。無料に近い提供。例えば、そのほかの例を考えると、美術は美術館の外へ出て、作品によって美術の存在をアピールするというのもあるかもしれない。自分の美術館における展示だけではなくて、どこかに出て行って、より人のいる公共の場、自由空間で美術を見せつけて、アピールするという手も考えられなくはないのではないだろうか。
5.これではまだ2.0未満
結局上記まで書いてきたことは、いわばweb1.0的発想を導入してがんばった展開をしてみたに過ぎない。そして行き詰まったというか、もとの位置にたどり着いた。これはきっと、2.0にある儲からないけれどなんとなく成り立つというところを、Art2.0に組み込まなければならないということだろう。

次回へと続く・・

 予定:儲からないけど大丈夫


関連リンク:
Art2.0 というごまかしのタイトルで(その1)
Art2.0 というごまかしのタイトルで(その2)
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