トマス・ピンチョンの初期短編集 スロー・ラーナー
トマス・ピンチョン
なかなか、あの大作「重力の虹」が刊行されない「トマス・ピンチョン全集」ですが、すでに刊行されているものから、初期短編集を冒頭の筆者自身による解説を加えて編集した作品「スロー・ラーナー」を読んでみた。このころから
初期短編集であるものの、すでに後の長編に見られる特徴は片鱗どころではなく見られる。スパイものであったり、ダメ男であったり、科学的な側面であったり、そして、少し珍しくも感じる青春ものであったり。猥雑感のある描写であるとか、現在と過去がシームレスに行き来する展開であったりも、まさにピンチョンである。
短編の集積
逆に言うと、ここに納められているような短編が高度に集積されたものが、ピンチョンの長編小説であるとも言えそうな気がする。短編小説の醍醐味は、破綻と整合のバランスのとり具合であって、どの程度破綻が余韻を産み出すのかというところにある。そして、ピンチョンの大作というのは、よくよく考えれば、完全に計算去れ尽くして接続されているようで、いくつかの話しは途切れっぱなしで余韻のまま回収されない場合も少なくない。
そこに、面白さがあるとも言えるのだが、このころの短編的展開を単に完成度を上げて長編と展開していったのではなくて、短編を編み込んで長編を作り上げていったことによって、トマス・ピンチョンの作品が他にはない秀でたものになっているのだと言うことを確認させられる作品でもある。
入門としても
トマス・ピンチョンの長編は長くて、しかも、慣れていないと読むのが困難に感じるかもしれないので、まだピンチョン作品を読んでいない方は、まずはこの短編くらいから慣れていくのがいいかもしれない。とはいえ、この作品はそれはそれでハードルが高いかもしれない。特にその面白みを感じることができるかどうかで、相性がわかるとも言えそうだ。関連リンク:
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