アントニオ・タブッキ の 「島とクジラと女をめぐる断片」



アントニオ・タブッキ

アントニオ・タブッキというイタリアの作家の作品、「島とクジラと女をめぐる断片」と題されたちょっとした作品を読んでみた。
タブッキの作品は、初めて読むのだけれども、この人物は、ポルトガルの詩人フェルナンド・ペソアの研究者であり、ペソアを愛するが故に、ポルトガルをこよなく愛するようになったという人物。ポルトガルで書かれた作品もあるほど。という背景をしるにいたって、なんか読んでみようかと思ったら、丁度軽めのこの「島とクジラと女をめぐる断片」を見つけたために読んでみたという次第。


アソーレス諸島

アソーレス諸島は、ポルトガル領の群島で、その島を題材にした、ちょっとしたお話をまとめたのがこの作品。小説という形態ではなくて、かといって、エッセイというほどの軽さでもない作品。短い文章が6篇ほど収められている。全体の分量としてもさほど多くはない。


断片の集積

そのそれぞれの短文は明確に繋がりを持っているような文章ではなくて、それぞれに文体も違えば、描こうとする様子も全く異なるもの。いわば、アソーレス諸島を題材にしてつらつらと思い浮かんだことを次々に文章にしていったというようなそんな作品。


くじら

この本の邦題のタイトルにもくじらという言葉が入っているけれども、この島は場所柄捕鯨の基地として使われたりしていたそうで、そんなこともあって、くじらや捕鯨についての話題もいくつか出てくる。
ここでのくじらの扱いは、どちらかというと神秘の生物というのか、自然を象徴している存在として扱っているような印象がある。そして、この島と鯨との密接な関係性を描きながら、この島の特性を描写しているようでもある。捕鯨に対する法律なども作品中に出てくる。この島の存在には不可欠な存在としてのくじら。


歴史

文章によっては過去にも遡り、島の支配をめぐる戦いなども軽く描写される。


つらつらと

つまり、現在を起点としながらも、各短文において過去に言及したり、伝統にも言及したりしながら、この島を多面的に描写していった、そんな作品。そこには、強いメッセージというようなものがあるわけではなく、むしろ、その島への作者の興味や愛のようなものが断片として文章化され、それが集積されて一つの作品となったという印象。
描き方としては、リオタールとモノリによる「震える物語」に近いと感じた。ただし、「震える物語」のほうが、より抽象的で深みを目指しているのに対して、この作品は、主観的な印象をもとに軽快に描いているという差異はある。


軽く

というところで、深い思想に潜り込むための作品というよりは、軽く味わうといった読み方が適切な作品。
こういった、作品はしかし、実のところ、作者の技量が明確に出てくるところで、文章量が少ないだけに、陳腐な言葉の多様に終わる情けない作品も生まれがちだが、さすがという技量で、決して陳腐ではなく、短いながらも、新鮮な印象を残してくれる、そんな作品に感じた。




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島とクジラと女をめぐる断片
発売元 : 青土社
発売日 : 2009-12-24 (単行本)
売上ランク : 56743 位 (AMAZON.co.jp)
¥ 1,995 在庫あり。
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