モーリス・ブランショ:ブランショ小説選 謎の男トマ など



1.作家、作品
フランス文学者、モーリス・ブランショマラルメの言語論と同時に議論されることも多い作家で、哲学よりの文学者という印象にも近いような感じがする。年代的には、サミュエル・ベケットとかサルトルとかに近くて、来年2007年が生誕100年になる。作品的には、小説という枠組みを超えて、存在と死の狭間を描きながら存在というものがどのような状態かについて言及しているように私には思える。また、それと同時に、言語空間という世界を探求してもいるのではと感じる。言語や文学について言及した著作も多く残している。


2.選書
このブランショ選書はそんなブランショの代表作であり、またブランショの特色がよくわかる作品を収めた本。収録作品は以下。
「謎の男トマ」「死の宣告」「永遠の繰言(牧歌、究極の言葉)」


3.謎の男トマ
3.1 はじめに
作品の詳細な分析は、やがてこちらのサイトへ上げようと思うが、とりあえず、簡単にここではまとめてみる。
まず、この作品の始まりは、とても小説的なというか物語的な構成で始まるのだけれど、これにだまされてはいけない。そこで、そのように捉えてしまって、一つの繋がった物語として読もうとすると途中で断念することになると思う(このblogで私が紹介する作品はどれもそうなのですが)。なので、まずは、物語を読むと言うことよりも言語表現をかみ砕くというような態度を確立しておくべき。
3.2 内容
謎の男トマと、恋人アンヌのお話。まず立ち上がりからしばらくは、謎の男トマの話し。しかも、しばらくは、比較的物語の形態を維持している。ただし、それは表面だけで、物語としては成立していないことはすぐにわかると思う。ただ、そこで物語ではないということはどういうことかというところから、この作品の表現を咀嚼し始める必要があるだろう。特に猫の登場あたりから、とても深い精神的世界に潜り込んでいく。
そして、アンヌの登場。まず、このアンヌが深層へと導く。死を目前にする。死と生存の狭間を行き来する。アンヌと彼女を行き来する。そして、トマは何処にいるのか。アンヌのものと思われる思索は混迷を極め、そして、その存在が不在に行き着く。そして、トマ。次は、トマの混迷の旅が始まる。この混迷の過程で、次々に二項対立が提示されて、そして、その狭間で、そしてそれぞれの対立の相似性についての言及による展開がなされていく。昼と夜。存在と不在。生命と非-生命。生存と非-生存。世界と宇宙。生と死。そして、最後の瞬間に、その対立による議論の結果として、宇宙が開け拡げられる。外部存在が構築されて、その外部存在によって、内部存在が規定される。世界は、そのそれぞれの内部存在によって形成されるが、しかし、その存在は外部存在を含む宇宙によって規定されている。それは、常に私という存在が世界という存在においてある種の違和感を持ち続けるより他ないということの説明でもあるかのように思える。つまり、存在は存在として孤立していると同時に、他者と接触し認識されることによってはじめて存在が社会における存在へと変化するということ。そしてその瞬間に時間軸が生成され、相対的に蠢いた存在として存在することとなるということ。そこにトマがたどり着くということのように思えてもくる。ただ、最終章のどこか宗教における最後の場所にたどり着いたかのような印象を受ける部分はどうだろうか、そこで、再度社会存在へと落ち込んでいくことの出来ない状態になったと言うところ。この部分がこの作品の最も議論すべきところかもしれない。もしくは、水の中へというところに実は感じるべきものがあるのかもしれない。
3.3 ハイデガーの影響
この終盤の展開には、ハイデガーの影響を感じずにはいられない。とても存在と時間的であるように感じる。存在の極限の状態。
3.4 文学表現
ただ、このハイデガー的思想の表現として文学を選択し、そこで、人物の存在を通しながら、種々の二項対立の中にアナロジーを含ませて、情景によって描き出す状態(夜という状態や埋葬を感じさせる表現)と言葉の展開(登場人物の独白的な部分におけるイメージによる分析を拒否した言葉だけの表現)によって描き出すものを絡めていくあたりは、とても文学的で面白い。


4.死の宣告
こちらは、かなり物語的な印象が強い。ある男、それにまつわる女性をはじめとした出来事。病や死のイメージを抱えながら。ただ、謎の男トマの印象が強すぎて、続けてこの作品を読むと今ひとつ印象に残りにくい。


5.永遠の繰言
このタイトルでまとめられている「牧歌」「究極の言葉」は、比較的読みやすい寓話。ある程度は物語として読むことも可能な作品であり、そのなかに込められているものも、不条理的ではあるが、難解ではなくイメージしやすいものと思う。


6.謎の男トマ
やはり、謎の男トマが強力な作品。死の宣告も永遠の繰言も面白いのだが、謎の男トマの印象の影に隠れてしまったというのがとりあえずの読後感。この2作については、もう一度冷静に読み直してみたいところ。
いずれにせよ、モーリス・ブランショの作品の重要性を感じさせてくれる作品。もう少し他の作品も読み進めてみたいと思う。


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ブランショ小説選
発売元 : 書肆心水
発売日 : 2005-09 (単行本)
売上ランク : 544632 位 (AMAZON.co.jp)
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