スタニスワフ・レム Stanisław Lem : 天の声・枯草熱



1.SFの巨人
先日、残念ながら亡くなってしまったSFの巨匠スタニスラフ・レムの作品「天の声・枯草熱」を読んでみた。レムというと、「ソラリス」があまりにも有名すぎて、その他の作品が知られていないが、この作品は、スタニスワフ・レム・コレクションとして、図書刊行会から出版されているシリーズの一冊。ただ、残念ながら、全6巻の予定が、3巻まで出た後、ぱったりと出なくなってしまっているという、ヘンリー・ミラー・コレクションと同じような運命となっている。


2.渋い二つの作品
タイトル通りの、2作品が収録されている。近頃のやたら字が大きくて隙間だらけで中身も薄い読み始めるとあっという間に読み終わってあまり得るものがない作品とは異なり、段組細字詰め詰めな紙面なので、2作品収録といいながら、それぞれは長編といえる分量がある。
2.1天の声
それはさておき、作品。まず「天の声」は、宇宙が登場するSFとして、「ソラリス」に近しいものがある。「ソラリス」も、SFの要素を持ちつつ、そこに、様々な概念がすり込まれている作品であったが、この作品はさらにその要素が強くなっていて、SFという場を借りながら、内容はかなり社会的である。ただ、そこがこの作品の弱点でもあって、ストーリーに支配されながら、そこから、メタ的な社会的表現が浮き出てくるべきところが、むしろ社会的主張が先に出てきてそこにストーリーを乗せているという印象になってしまっている。こうなってしまうと、小説という形態で表現する意味が無くなってしまい、少々残念なところだ。またここで主張しようとしている内容自体も少し偏りが見られる。全体的な構造としては、未知と仮説と発見と失敗を繰り返しながら、真実に迫ろうとするというさすがレムという出来にはなっているのだが。
2.2枯草熱
次いで「枯草熱」。こちらは、明らかに、「天の声」よりも、小説としての完成度が高い。登場人物が宇宙飛行士であること以外は、宇宙的なSFという印象はない。ただ、随所に科学/化学的見解が出てくるところはSF。数人の原因不明の死の要因を探るという内容からすると推理小説ともいえる。まぁ、ジャンルなんてどうでも良いが。で、その完成度の高さというのは、先述の「天の声」の弱点が見事に克服されているというところ。主張的な部分がストーリーの中に違和感なく融け込んでいて、小説の面白さが見事に2段組になっている。謎の死を解明するために、死亡した人たちの様々な共通点を分析していくのだが、仮説に次ぐ仮説がどうやっても成立しない。そして、それを必死に解こうとするのだが・・・という展開で、その仮説に次ぐ仮説の部分が、様々なパラメータに惑わされて、本来の原因をなかなか突き止められないという、現実において(特に何らかの研究活動において)見られる悩みと葛藤を見事に表現してもいるし、それがいかに克服されるかとったところもまた、結論として、とても面白い。様々な相互作用によって、発生した問題を前に悩み葛藤したことのある人にとっては、とても共感出来る無いようでもあると思う、そして、その葛藤の様子は、単純に読み進める面白さにもなっている。個人的には、「ソラリス」以上の傑作だと思う。


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天の声・枯草熱
発売元 : 国書刊行会
発売日 : 2005-10 (単行本)
売上ランク : 20460 位 (AMAZON.co.jp)
¥ 2,940 通常24時間以内に発送
評価平均 : /3人
レムの重要作!どれだけの人が最後まで読み通せるか…。
レムのベスト2位。
やっと出た。
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