「脳内ニューヨーク」は、スタンディングオベイションしたくなるほど傑作です



チャーリー・カウフマン

マルコヴィッチの穴などの脚本で知られる、チャーリー・カウフマンが初監督した作品、脳内ニューヨークを見てみた。


すばらしい

そして、この作品がなんとも、すばらしすぎて、思わず、スタンディングオベイションしたくなるほどのそれ。こうなんというのか、見事に人生というのか、人間の感情を描いているという感じ。


内容

で、内容なのだけれども、ある劇団を率いる一人の脚本家の半生。芸術家である妻がいて、幼い女の子を持つこの中年脚本家は、自分の体に病の影を感じながら、死を意識するようになる。そんなときに、妻は子供を連れて家を出ると共に、芸術家としての成功の道を歩み始める。一方で、意気消沈する彼の元には、天才賞受賞による賞金が手に入る。
そして、かれは一念発起して、この賞金を元手に全く新しい演劇の演出に着手することになる。


続く演出

この演出なのだけれども、彼の半生をまるっきり再現しようとするような作品となる。舞台は、少しずつ大げさになりながら、彼の周囲に起きたことを再現していく。やがて、彼自身を演技する人物までもがとうじょうし、さらにその彼を演技する人を演技する人まで登場するという複雑怪奇な展開。やがて、そこには、街がそのまま再現されていく。その間、長い月日が経ち、彼は劇団の女性と結婚し、子供が出来、やがて、また離別する。かつて、かれに思いを寄せていてた女性に、今度は、思いを寄せたりもするが・・・。


彼の人生

演出と平行して描かれる彼の人生には、常に未練がまとわりついている。そして、常に物足りなさがあり、最初の妻、次の妻、そしてもう一人の女性へと、例えどの一人とうまくいっているときでも、その存在を忘れることが出来ず、その人生に関与したくなるというその未練。こういった、圧倒的な欠乏感を満たそうとする行為というのは、もしかすると、芸術家には最も必要な要素なのかもしれないけれども、それ故に、彼は常に満足することは出来ないでいるようでもある。そう、例えばそこにある小さなしあわせに錨を落としても良かったのかもしれない。しかし、かれは彷徨い、結果何も得ることが出来ないでいるようでもある。


まるで

そんな、彼の人生観がそのまま照射されてもいるようである彼の演劇は、上演のめども立たないままに、変化に変化を遂げながら拡大していく。そして、彼はたびたび、「何かを見いだした」といったような発言をして、演出の突破口を見いだしたような事を口走る。しかし、それもまた満足することの出来ない彼から何度と無く登場する発言であって、実際には、結末へは向かわない。


途中

途中、まるで全ての解答にもなり得るような場面が登場する。その場面のみがこの全てを描ききっているかのようなそれが。追い求めに追い求めても、全てを捉える事など出来ない人生とはということを描き、全てはこの自己満足にしかすぎないとでも言っているかのような場面が。
この場面が、恐らくクライマックスだと思う、しかし、あえて、ここで物語を終わらせはしない。


そしていなくなる

そして、彼は、演出家の立場を全く違う人へと譲り、自分は掃除婦の役柄におさまる。そのあたりから、彼の人生も、この演劇も終演へと向かう、いや、終焉へと向かう。そして、彼は、演劇の指導権を失うと共に、自分の人生の指導権も失い、演出されるままの立場になる。やがて、劇場は廃墟のようになり、人々が行き倒れになった街が残される。そして、映画も終演へと向かう。


死へと

この映画は、人生において、死を意識したところから、生きると言うことはどういう事かということに対する過剰な欲求を描いているようでもある。彼は病を感じ、周りの人々が少しずつ死んでいく。思い通りに動かなくなる体、思い通りに行かない人生。求めれば求めるほどに遠ざかる完成。どうにも描ききれない、どうにも言葉にしきることの出来ない感情のもどかしさが、ここに見事に描かれている。すばらしいとしか言葉が出てこない傑作。


名作を

この作品をみると、一方で、文学の変遷を感じさえるところもある。街そのものを描ききってしまおうというのは、ジェームズ・ジョイスユリシーズを思わせる。しかし、それでも描ききれないとして、言葉をむしろ削りに削っていったサミュエル・ベケットへの展開を感じないではいられない。


いずれにせよ

いずれにせよ、この作品は、とてもとてもすばらしい作品です。一方で、ちょっとした笑いの要素も忘れてはいないので、どんどんと複雑化する物語であるけれども、分かりやすくて単純に面白いという要素も十分にあるので、これはもう、傑作というしかありません。お薦めです。




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