「幼女と煙草」というちょっとした皮肉めいた物語



ブノワ・デュトゥールトゥル

今回紹介する文学作品「幼女と煙草」は、ブノワ・デュトゥールトゥルというフランスの作家による作品。この作家、日本ではこの作品が初翻訳みたいだけれども、本国ではそれなりに評価されているらしい。
ちなみに、帯には”サミュエル・ベケットに見いだされ、ミラン・クンデラが絶賛する”というコピーが書かれていて、どこまで大げさな表現なのかどうかは分からないけれども、読書好きの気持ちをくすぐるそれで、私もこのコピーによって購入を決断しました。


軽い読み物

この作家が、普段はどういった作風なのかなどなどは、全く不明なのだけれども、この作品は、じっくりと書き上げられたという感じではなくて、軽く書き上げたという印象がするもので、分量としても、短編よりは長いけれどもそれほど長くはないというところ。なので、読む方としても、結構軽く読めてしまう作品。


ブラック・ユーモア

で、この作品は、とある都市を舞台としていて、その都市では、喫煙が強く規制されていて、さらに、子供や女性などの権利が強く保護されているというそんな都市。というところから、この作品のタイトル。
で、まぁ、このような舞台設定が用意されているというのは、現在の時代の方向性をより過剰に展開した状況としての舞台設定になっているというところで、その過剰さが起こす悲喜劇をユーモラスに描く作品で、しかし、それをあえて直接的に批判するようではないところが、ブラック・ユーモアというか、それ以上に風刺的な作品。


星新一

読んでみた感覚としては、星新一の作品のイメージに近いものを感じる。その風刺的な表現方法といい、一方で、その表現によって、風刺対象を完全に否定したいという感じではなくて、風刺することで、現在の状況に対する冷静な視点を取り戻させようとするようなそんな作品。


もう少し

もう少し詳しく作品に踏み込んでみると、舞台は先述のとおりの様子の都市。そこに暮らしている二人の男の境遇が主な描写。
二人の男は、その当初の境遇も異なれば、その最終的に彼らに起こることも全く異なる。ただ、その異なる様子が、単純に違うという意味ではなくて、きれいに対称を為しているという意味でのそれであり、いわば正反対といってもいい状況。だけれども、この二人が持っている主張そのものには似ているものがあるところが味噌。理不尽な逮捕、煙草に対する思いいれや、保護的待遇に対する冷めた視線。しかし、そのとる行動によって、その結果彼らに訪れる結末は全く異なるものとなる。


二つの風刺

そう、この作品にはここにも面白さがあると思う。なんとなく読むと、その舞台設定にある善としての行動である禁煙や弱き者の保護という行為が、しかし、結果的にはむしろ理不尽な事を引き起こすというところにのみ注意がいってしまうと思うのだけれども、そこだけではなくて、この二人の好対照な結末にも面白さがあって、まるで悲劇を飄々と受け入れるようなスタイルでしかし最終的に亜hちょっとした主張によって危機を切り抜け世論まで味方につける一方で、必死に誤逮捕を否定しようとしながらも、どんどんと深みに落ちていって世論さえも敵にしてしまい、さらに最後に懇願に陥るという姿。
ここには、なんというのか、一方で持つ社会の矛盾に対して、それを生き延びるために為すべき態度がどのような事なのかということにも言及していて、そこにもある転置的な状況を風刺しているようでもある。
そう、この物語には、この二つの側面からの風刺があって、その結果として、その両方に包含されている強烈な多数決の結果である圧倒的世論に対する風刺へと昇華されるそれであると思う。


やはり軽く

とはいうものの、この物語の風刺には殺意が全く込められていなくて、軽く物語っている。そう、強烈にここに描かれている状況を否定しようとしての風刺ではなくて、淡々とその状況の不自然さを暴き出しているに留まっている。この態度が果たして正しいのかどうかは、それは、この物語に出てくる二人の男の結末を考えれば自ずと答えにたどり着くというしかけかもしれない。


興味深い

というところで、風刺とかウィットに込められた重複する意味合いを探りこむようなところに文学の面白さがあると感じているタイプの読者には、とてもお薦めな作品だけれども、ストレートに物語を楽しもうとするタイプには、この面白さは伝わらないと思う。
いずれにせよ、この作品を契機にブノワ・デュトゥールトゥル氏のその他の作品も翻訳されることを願う次第です。




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幼女と煙草
発売元 : 早川書房
発売日 : 2009-10-09 (単行本)
売上ランク : 23734 位 (AMAZON.co.jp)
¥ 1,680 通常3〜5週間以内に発送
評価平均 : /2人
残酷なばかりでちっとも面白くない
キャッチコピーに騙されるな!(色んな意味で)
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