エンロン : 渋谷ライズX



1.巨大企業の崩壊
2001年に巨額の不正会計が明るみに出て、あっという間に、かつ、衝撃的に崩壊した巨大企業エンロンのその繁栄から崩壊に至るまでを、会社関係者およびその不正解明に携わった人物のインタビューおよび当時のニュース映像などを組み合わせて追いかけたドキュメンタリー作品。渋谷ライズXにて、2007/01/19まで上映(予定)。


2.不正とは言うけれど
事件当時、確かに話題になったし、ニュースでもさんざん取り上げられたけれど、その詳細まではなかなか話題にならなかったことあったり、また、現在ほど企業の金融政策が話題になることも少なかった日本であったこともあり、その詳細な様子は知っているようで、知っていない。その部分が明快になってくるのが、この作品。
何よりも、まずこの作品が強調していることが、この事件が、エンロンのみによってなされた訳でもなければ、その中の数人幹部が全てを操作したわけでもないというところ。その影には、エンロンによって儲けた金融機関もあれば、弁護士事務所、会計事務所、政治家などがわんさかといるという事実。その一方で、電気が来なくなって困ったのは、カリフォルニアの住人だし、なけなしの年金が紙くずになったのは、エンロンによって買収された小さな企業の労働者であるというところ。いわば現在の行き過ぎた金融資本主義の暗部を付いている作品といえる。


3.逃れる
当然、会社は最後はつぶれたし、会計事務所もつぶれた、数人の逮捕者も出した。だけれども、無傷で逃れた人もいるし、無傷どころか、株高の間に売り抜けた人々もいる。エンロンと関係が深いと言われるブッシュは依然として大統領だ。やり逃げが可能であることも事実という気がしてくる。早々と会社を逃れた人々、株を売り抜けて儲かった人々。勿論、売り抜けというと聞こえが悪いかもしれない、未必の故意なのかもしれない(いや、この表現自体にも悪意がこもっているか)。


4.飛躍
こんなところで、飛躍したくなるのは昨今の労働に関する議論。特に、ホワイトカラー・エクセプション関連の。で、要するに人々がプロ意識を持って働くべきなのだと、いわゆるただ、月給をもらうだけに与えられた仕事を処理しているだけという感覚でいるからだめだという議論。もっと積極的に行けば、このようなホワイトカラー・エクセプションにしても、労働組合の弱体化や、派遣労働者の拡大といったことも、社会問題ではなくて、個人の問題なのだという主張。
これって、どこかそれっぽいし、かっこいい議論に見える。だけれども、それはやはりそう見えるだけに過ぎないと個人的には思う。この世の中に住んでいる人間はあまりにも多様である。そして、個人はあまりにも、ある側面では、弱々しい。そして、全ての物事に、人々が完全に対応できるわけではない。年金を頼りにせずに自分で投資でもして儲ければいいという主張が、ある側面から言えば、ただギャンブルに人生を託せと言っているにすぎないのと近しい議論。それは何故かと言えば、人々は日々の労働にある程度の時間をついやさざるを得ない、そして、家族がいて、子供がいれば、その対応もある、その中で、投資にまでどこまで時間と精神力を割くことが可能だろうか。日々の仕事が精一杯の人間におまえの働き方がわるいから将来が不安になるのだと、何処まで言うことが出来るのか。はっきり言って、世の中に暮らす人々は、様々な社会変化の可能性に全てに対応できるような個性を備えている人間は多くない。もっと異なる個性を備えている人の方が多いというか、世の中の人間の個性はもっと多様だ。その多様性の最小公倍数をなるべく高い値で実現しようとするのが、政治家の役目であるはずで、そのことに寄与しない制作は批判を浴びて当然であり、その観点からものを見るべきだと思う。そう考えたときに、ホワイトカラー・エクセプションはどうなのかという議論をすべきではないのか。
と、何故エンロンからそこに行くかというと、エンロンで損害をうけた人々、例えば、ただカリフォルニアに住んでいただけで、エンロンの金融政策の標的にされて、電気代があがったり、電気がこなくなった人々に対して、だれも自己防衛が足りないとはいえないはずだと思う。そして、そういった損害を受けるのはたいていそんな金融的な出来事とは全く無縁であったはずの人々である場合が多い。ホワイトカラー・エクセプションにしても、本当にその気がある人と議論して導入されるのならいいけれど(ということは、裁量労働制の範疇で十分ではないか?)、制度になったとたんに企業にとって導入が容易になり、気づけば、その中に押し込められて損害を受ける個人が出てくる危険性をはらむことがもっとも重要な議論のようにも思う。勿論、個人が強くなる必要も、世の中が変化している以上あるけれども、個人に出来ることは、限られているし、個性によっては、それはさまざまな限界を持つ。


5.だけれど
だけれども、この映画を見て思うのは、やはり、強くあらなければならないと言うことかもしれない。それは、自分自身の逃げかもしれない。自分だけは、このようなことに巻き込まれないでいることが出来ればそれで良いという。まちがって、エンロンに投資して、痛い目に遭わなければ、それで個人的にはなんの問題もないという。あまりにも、相手が不明なところに行きすぎているという印象があって。
一方で、金融マジックというのは、なんともすごいエネルギーを持っているということも思い知らされる。必ずしも悪く転がるわけではなく、時には、よく転がることもあるとは思う。さて、もう一度考えたときに、なにが悪いマジックで、何が良いマジックなのか、しかし、私には見分ける能力はない。


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