「安部公房スタジオと欧米の実験演劇」 所感

安部公房による演劇的試みが、
このところ再注目されているようです。

安部公房スタジオと欧米の実験演劇」読みました。
正直な感想としては、評論としては、もう一つ何かが欲しいというのが本音の印象、紹介としては十分だけど。特に安部演劇に関する記述の部分については、私自身が多くを知りすぎているせいか、とくに目新しい視点はないと感じた。欧米前衛演劇の部分については、私自身の知識のなさのため、情報としては良くまとめられていて価値があったが、安部演劇との比較に戻るとまたしても、興味深い視点はなくなる。ということで、結果としては、評論としてはあまり面白みはなく、どちらかというと、安部演劇および欧米実験演劇の紹介として読むべきであり、そういった面からは非常に貴重で良くまとまっていて評価できる。特に、欧米実験演劇については、時々話題こそあれ、あまり詳細が分からない。独語にネットで軽く検索してみたが、あまりヒットもせずということで、埋没されそうな20世紀文化になりつつあるのかもしれない(演劇方面あまり強くないので、誤解があれば演劇にくわしいかた申し訳ないです)。方向性や取り扱っているテーマが面白いだけに、つっこみきれてない、独自視点があまり感じられないのは勿体ない。これは私の推測だが、この作者自身はきっとここで扱われている演劇を生で見たことは無いのだと思う。私自身もないから偉そうなことは言えないが、おそらく、見た経験があればもっと面白いものになっていたのではとも思う。このあたりが、演劇評論の難しさだろう。概念だけで議論することは出来るには出来るが、ライブの情熱がないと文章も踊ってこないし、結局概念だけかとなってしまう。但し、その概念と各劇団の展開のまとめかたは非常にすばらしいと思うし、参考になる。
 また、よくよくこの本の後書きを見ると、どうやら、博士論文出版助成による出版ということで、ということは、この作品は博士論文だったということか。そういった意味から見るとさらに、物足りなさを感じる。それとも文学系論文はこういった展開が一般的なのだろうか。私自身工学系出身なので、そのあたりのことはよく分からない。こちらも私自身の誤解があれば申し訳ない。
 昨年出版された「安部公房の演劇」のほうが読み応えがあった。ちなみにこちらも、大学の出版助成による出版のようだ。このあたりの出版事情も残念といえば残念。

安部公房関連サイト;
安部公房千眼力の冒険者
安部公房分析室


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