レムコレクション最後の作品 主の変容病院・挑発

スタニスワフ・レム

ポーランド出身の小説家、スタニスワフ・レム。様々な作風があるが、SF作家としてが最も有名であろう。また、彼の名著は、映画化もされており、「ソラリス」はタルコフスキーによる映画化で、名作映画としても知られている。


レムコレクション

2004年くらいに始まったこのシリーズ刊行だけれども、実に10年以上の月日を経てようやく完結。まぁ、読み手が少ない一方で、翻訳に手間のかかる文学においては良くある話しだけれども、忘れた頃にようやく出版された最後の巻が「主の変容病院・挑発」である。


作品集

この刊行は、初期の文学的作品「主の変容病院」と、架空の作品に対する書評「挑発」、および随筆といってもいいのだろうか、指向実験的な著述「二一世紀叢書」で構成されている。


主の変容病院

ある若い医師の物語。様々な事情を経て彼が働き始めた病院。その病院における患者の精神状態の描写にすでに深い洞察が感じられる作品。しかし、それだけではないのがこの作品で、彼の出身であるポーランドが色濃く出ており、明らかに戦時のナチスによる行為がこの病院に最終盤に襲ってくる。
最後の場面の描写だけが、何とも飲み込みきれないところはあるが、人間の感情とは何かに迫っているとも感じる病院の患者に対する描写は心につきこんで来る。また、さらにそこに訪れる悲劇を思うとなおのこと。
平穏に生きている人が自己の薄い価値だけをばらまこうとすることの悲劇。


挑発

この作品にもまた、同様の要素が深く描かれる。しかし、視点は冷静であり、分析的である。結局何がそのような湖とを引き起こすのだろうかと。


二一世紀叢書

こちらは、レムの科学的知識の側面が全開となる作品。
生命を持つ地球の誕生は、奇跡的であるのか、確率的であるのか。
そしてさらに、人間へとつながる過程での恐竜の絶滅。
いずれも、ある種の悲劇、もしくは、劇的な環境の変化が、終末を引き起こすと同時に新たな胎動にもつながっていくということ。
その振り返りにとどまらないのがこれの面白いところ。そこからさらに進化すると何が起こりえるのか。究極的な生存力を持つと結論づけることの出来る昆虫、さらにはウィルス。
やがて、それらの原理に基づいた兵器が開発されたとすると。そして、疑心案気が抑止力を奪い去ったときに、それは、ある種の人類の絶滅へとつながりうるのだろうか。


深くて

この作品集は、レムの作品を読み切ったという人向けであることは間違いない。彼らの洞察の深さを十分に理解した上で、より生のレムの考え方が読み取れるのがこの作品だと思う。
ある意味では、ジェノサイドを軸にした作品集だが、その意味では最後の作品の結末はものを想う筋道である。
レムの熱心なファンは必ず読むべき作品だと思います。


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