霧がかった文体が構築する物語「最後の恋人」残雪



残雪

中国の作家「残雪」。霧がかった独特の文体で、夢ともつかぬような、おぼろげな世界を描き上げる作家。
その作家の「最後の恋人」と題する作品を読んでみた。


構築

残雪の作品は、どちらかというと絵画のようで、物語性は強くなく、何処かの何かをおぼろげに描き出しながら、一方でそこにある現実を浮かび上がらせるようなそんな作品が多かったのだけれども、この作品は、壮ではなくて、より具体的な情景が描かれる物語を持った世界として描き出されてくる。


しかし

登場人物は限られている。本が好きという以上にはそれほど得意な要素の無いジョー。そんな彼の会社を中心として、そこに関係する人物を経由して、世界中に飛び回る世界がそこから始まる。
しかし、さすが残雪だけあって、そう簡単には物語は進まない。一体何が議論されているのかもよくわからない世界に徐々に引き込まれていき、そして、そこに描かれる世界も、何処か、不可思議で、少し、マジックリアリズムの要素も感じさせる。
であるものの、マジックリアリズムほどはっきりとは物語は進まず、彼女らしい、カフカ的迷宮とも言える世界へと入り込んでいく。


そして

そして、世界はどんどん広がっていく同時に、登場人物は、まるで溶けていく。ベケットの登場人物であるかのように、不思議な行動とそして状態に変化していく。それと共に、描かれる世界もまた、溶けていく。
具体的には何がそこい描かれているのかは、どんどんと不明確になっていき、世界は溶けていく。


社会

その溶け込みようには、どこか、関係性をもとに構築される社会に対して、別の次元で存在しているとも言える個人。その個人の価値と社会の価値の狭間にある、圧倒的な差異が言及されているとも感じられる。
社会という関係性における価値の一方で、個人が帰依する世界の価値とは。この世界の持つ整合性のなさという意義が世界を引き込んでいく。社会という相対的関係性の中では、結局何一つ満足出来るものは得られず、一方で、個人に帰依してしまうことには、心地よさもあり、だけれども、個人に帰依しすぎると存在は溶けてしまい、存在ではなくなってしまう。


深く

なんとも意味不明な作品が、絶対的価値に対するアンチテーゼのようでもあり。いろいろとな想いをめぐらせることの出来る面白い作品です。

関連リンク:
かつて描かれたことのない境地 - 平凡社
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最後の恋人 (残雪コレクション)
発売元 : 平凡社
発売日 : 2014-02-20 (単行本)
売上ランク : 561055 位 (AMAZON.co.jp)
¥ 3,132 在庫あり。
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