文学

ガルシア・マルケス「族長の秋」とその他の短編

ガルシア・マルケス マジックリアリズムの騎手として、ラテンアメリカ文学の最重要人物でもある ガルシア・マルケス。 後にノーベル賞を受賞することになるが、その初期に書かれた作品を、集めた作品集が、「族長の秋」。 私が読んだ新潮社版は、この表題作…

友人を横糸に語るヘンリー・ミラー「友だちの本」

ヘンリー・ミラー 自由奔放な人生を自由奔放でありながらも、フラットで正確な描写で描く作家、ヘンリー・ミラー・ そんな彼らの作品群から友人について書かれたものをまとめたものが、水声社から出版された「友だちの本」。 「友だちの本」「ぼくの自転車、…

パスカル・キニャール時を巡る論考「いにしえの光」

パスカル・キニャール フランスの小説家パスカル・キニャール。小説家という要素もあるけれども、哲学者というのか思想家というかという要素も強い。 今回は、「最後の王国」と第されたシリーズの作品「いにしえの光」。 これも、思想集という感じで、このシ…

特異な人々を描いたトーマス・ベルンハルトの破滅者 

トーマス・ベルンハルト トーマス・ベルンハルトは、オーストリアの作家。陰湿な文体で、ときに祖国をひどく批判することから、本国では支持されず、一方で本国以外からはその得意な文体と文学表現により評価される作家。 多くの作品は、段落がなく、ただひ…

ヘンリー・ミラー 「冷暖房完備の悪夢」

ヘンリー・ミラー 米国を代表する作家。自由奔放にも思える人生を、自由奔放に描く、私小説とも、日記とも、文学とも取れる自在でかつ痛烈な文章で描く作家。 数年をかけて、水声社から刊行されていたヘンリー・ミラー・コレクションの最後を飾る作品として…

静かな旋律「約束のない絆」パスカル・キニャール

パスカル・キニャール フランスの作家パスカル・キニャール。作家であると同時に、音楽や舞台、一方で、哲学など、総合的な思索家であり表現者であると言える人物。 そんなパスカル・キニャールの作品群が、パスカル・キニャール・コレクションという形でま…

サミュエル・ベケットの極地「事の次第」

サミュエル・ベケット「ゴドーを待ちながら」という演劇作品が最もよく知られているノーベル賞受賞作家サミュエル・ベケット。言語の限界に向かいながら、時に人が自分自身ですら表現することが出来ない感情を、言葉として現出させることに挑んだ作家ともい…

レムコレクション最後の作品 主の変容病院・挑発

スタニスワフ・レムポーランド出身の小説家、スタニスワフ・レム。様々な作風があるが、SF作家としてが最も有名であろう。また、彼の名著は、映画化もされており、「ソラリス」はタルコフスキーによる映画化で、名作映画としても知られている。 レムコレクシ…

「未来の回想」は時間を切り裂きながら

シギズムンド・クルジジャノフスキイ ソビエト時代のウクライナの作家、シギズムンド・クルジジャノフスキイ 。 ソビエト時代には、作家としては注目されることはなかったが、死語になって、再評価されてきている作家。 いくつか邦訳がでつつあるが、そのう…

エンリーケ ビラ=マタス パリに終わりはこない

エンリーケ ビラ=マタス散文的な語り口調で、様々なコアな文学者、文学作品に言及しながら、物語を紡いでいくことの多い作家、エンリーケ ビラ=マタス。 今回紹介する作品「パリに終わりは来ない」は、自信の伝記的ともいえる内容をベースに、ヘミングウェイ…

霧がかった文体が構築する物語「最後の恋人」残雪

残雪中国の作家「残雪」。霧がかった独特の文体で、夢ともつかぬような、おぼろげな世界を描き上げる作家。 その作家の「最後の恋人」と題する作品を読んでみた。 構築残雪の作品は、どちらかというと絵画のようで、物語性は強くなく、何処かの何かをおぼろ…

あまりにも圧倒的な超文学「重力の虹」

トマス・ピンチョン現代アメリカ文学の頂点に立つといって過言ではない作家、トマス・ピンチョン。作品数は決して多くはなく、そのどれもが大著であり、難読。しかも、メディアにはほぼ登場しない謎の人物でもあり。 そんなトマス・ピンチョン作品の中でも、…

哲学的SF作家スタニスワフ・レムの短編集

スタニスワフ・レム映画化などもされて有名なソラリスをはじめとして、数々の名作SF小説で有名なスタニスワフ・レム。レムの特徴としては、単にエンターテインメントなSF要素だけではなく、その仮想世界における生命の動きを通して、より深く人間や世界を洞…

フリオ・コルタサルの傑作短編集 すべての火は火

フリオ・コルタサルフリオ・コルタサルは、アルゼンチンの作家。ラテン・アメリカ文学ブームの中でも注目されていた作家のひとり。今年が、ちょうど生誕100年にあたるということで、ちょっとしたイベントであったり、改めての出版であったりということもあっ…

レーモン・クノーの超絶名作「はまむぎ」を読んだ

はまむぎレーモン・クノーは実験的な文学者としてよく知られる作家。その処女作にして代表作である名作「はまむぎ」を読んだ。 構成私個人の意見だけれども、文学というのは、単に物語を追いかけて読み理解するというだけではなくて、その作品全体にある構成…

ガルシア・マルケスの講演集「ぼくはスピーチをするために来たのではありません」

ガルシア・マルケス南米を代表するノーベル賞作家で、今年前年ながら無くなってしまった、ガルシア・マルケス。スピーチが大の苦手と言うことで、ほんとどスピーチを行っていなかったそうですが、そのなかでも、数少ない講演を納めた作品、「ぼくはスピーチ…

レーモン・クノーによる辺縁への偏愛「リモンの子供たち」

レーモン・クノーレーモン・クノーは、フランスの作家で、シュールレアリストなどとの交流をはじめとして、新たなスタイルの文体を追求した作家。その中でも、同じ文章を様々なスタイルで書き換える文体練習は代表作の一つであり、この作家のスタイルを端的…

トマス・ピンチョンの初期短編集 スロー・ラーナー

トマス・ピンチョンなかなか、あの大作「重力の虹」が刊行されない「トマス・ピンチョン全集」ですが、すでに刊行されているものから、初期短編集を冒頭の筆者自身による解説を加えて編集した作品「スロー・ラーナー」を読んでみた。 このころから初期短編集…

2013年を自分のブログから振り返る 文学編

2013年 明けましておめでとうございます。 さてさて、今年は、完全に出遅れて、すでに2014年ですが、ぼちぼちと振り返ってみます、2013年。ということで、まずは、文学から。 ちなみに、今年の途中で、履歴管理をしているWebサーバーが飛んだので、急遽 iPho…

ノーベル賞作家莫言の初期作品「天堂狂想歌」

莫言ノーベル文学賞を受賞したことで、日本でも多少は知られるようになったであろう中国の作家 莫言。その初期の作品、「天堂狂想歌」が出版されていたので読んでみた。 ニンニクの芽事件この作品は、実際に中国で発生した蒼山ニンニクの芽事件をベースにし…

ポーランドにおけるナチスとの戦いを描いた話題作 HHhH

HHhH今回紹介するのは、フランスの作家、ローラン・ビネによる作品「HHhH」。この作品によって、ローラン・ビネは、フランスの由緒正しき文学賞であるゴンクール賞新人賞を受賞している。 この不思議なタイトルは、日本語訳すと「ヒムラーの頭脳はハイドリヒ…

中国の作家 残雪 による 「かつて描かれたことのない境地」

残雪残雪は、中国の女性作家。非常に独特の文体で独特の世界を描くことで知られている。あまりにも独特の世界過ぎて何を描きたいのかということはなかなか一般的な感覚では理解しにくい作家かもしれない。 そんな残雪の特徴が存分にでている短編集「かつて描…

トマス・ピンチョンの「LAヴァイス」を読んだ

LAヴァイストマス・ピンチョンの既刊は、新潮社のトマス・ピンチョン全小説によって続々と刊行されていて、「LAヴァイス」もその一つ。ちなみに、このシリーズは、予定から遅れに遅れている「重力の虹」を除いて全て刊行済み。 で、「LAヴァイス」を読んでみ…

難解小説「犬と狼のはざまで」を読んだ

サーシャ・ソコロフロシアの作家サーシャ・ソコロフによる、「犬と狼のはざまで」を読んでみた。この作家の作品は、こちらでも紹介している「馬鹿たちの学校」も日本語訳が出ている。 この「馬鹿たちの学校」もなかなかのなん読書であったが、この「犬と狼の…

こないだ映画を見た「コズモポリス」を単行本で読んだ

コズモポリス先日劇場公開されていた映画、「コズモポリス」は原作があって、それなりに知られた作家ドン・デリーロによる作品がベースと成っている。 なんとなく、この作家にも興味を感じたので、原作を読んでみることにした。 忠実原作を読んでみて感じる…

ミハル・アイヴァスによる「もうひとつの街」新たなプラハの迷宮

ミハル・アイヴァスミハル・アイヴァスは、チェコの作家。近年世界的な名声も高まってきているといわれる作家で、ボルヘスなんかも引き合いにだされるようなタイプの作家。 そのミハル・アイヴァスの日本では初の単行本である「もうひとつの街」が刊行された…

安部公房の幻の作品を収録した初期短編集「題未定」

安部公房私が最も愛する作家、安部公房。ノーベル文学賞を何故取らなかったのだろうかと最も残念がられている作家の筆頭でもある。 そんな安部公房の幻の初期作品が、昨年発掘されて、新潮に掲載された。 その作品「天使」を含む初期短編を集めた短編集「題…

閉鎖空間と開放時間メキシコの文豪カルロス・フエンテスの「誕生日」を読んだ

カルロス・フエンテスカルロス・フエンテスは、昨年亡くなったメキシコの作家。日本での翻訳では、「アウラ」などが知られている現代文学者。 ラテン・アメリカ文学の隆盛のきっかけと成った作家の一人でもある。 誕生日で、私が読んだのは「誕生日」という…

現実と架空が交錯する活劇「ヴァインランド」を読む

トマス・ピンチョン現代文学最大の作家の一人、トマス・ピンチョンによる代表的な作品の一つ「ヴァインランド」を読んだ。ちなみに、私は、この作品をすでに一度読んだことがあったのだが、「重力の虹」を残して刊行されたトマス・ピンチョン全小説にて、再…

2012年を自分のブログから振り返る-文学編

文学編さてさて、昨日に引き続き2012年を自分のブログから振り返るで、本日は文学編。 ニュースから2012年の文学的ニュースはなんと言ってもノーベル文学賞を受賞したのが、私の大好きな文学者莫言氏であったということ。個人的な感覚からすると、ようやくと…